江戸むらさき

江戸むらさき

「江戸むらさき」は、日本の食品メーカーである株式会社桃屋が製造・販売する海苔の佃煮の商品名です。戦後の食糧難がまだ残る1950年に、その第一号商品として「グリーンラベル」が市場に登場しました。

歴史と名前の由来

1920年に創業した桃屋にとって、「江戸むらさき」は発売からわずか30年目で初めての大ヒット商品となり、その後の会社の発展に大きく貢献しました。商品名の由来は、日本の伝統的な染色色の一つである「江戸紫」と、醤油の別称として使われる「ムラサキ」を掛け合わせたものです。これは、佃煮の主要な味付けである醤油にちなんでいます。

こだわりの製法と品質

この製品の核となる原材料には、発売当初から今日に至るまで、三重県・伊勢湾で育まれた青海苔（ヒトエグサ）が厳選して使用されています。味付けは、醤油、砂糖、水飴というシンプルな調味料を用い、釜でじっくりと炊き上げる伝統的な製法が守られています。かつては職人の手作業によって作られていましたが、現在は全て機械化されており、安定した品質で大量生産が行われています。発売当時は、戦後の混乱期で人工甘味料を使った安価な佃煮も流通していましたが、桃屋は『良い海苔 良い味 何はなくとも江戸むらさき』というキャッチコピーを掲げ、素材と味へのこだわり、すなわち本物志向を前面に打ち出すことで、消費者の信頼を得ました。

親しまれたCM戦略

「江戸むらさき」の知名度向上に大きく貢献したのが、ユニークなCMです。戦後喜劇俳優として人気を博した三木のり平氏が自筆で描いた似顔絵が新聞広告で話題となり、1958年からはその似顔絵をモチーフにしたキャラクターが登場するアニメーションのテレビCMが制作・放送されました（制作はエイケン）。三木氏の没後も、その長男である小林のり一氏がナレーターを引き継ぎ、長きにわたりCMの声として親しまれました。また、TBSラジオ系列で長年放送された桃屋提供のラジオ番組『永六輔の誰かとどこかで』でも、番組のエンディングで永六輔氏と遠藤泰子氏による桃屋のCMが流れ、最後に遠藤氏がスポンサー名を読み上げる形で番組を締めくくるのが定番でした。

多様なラインナップ

「江戸むらさき」は、海苔の佃煮の代表的な商品であるだけでなく、豊富なラインナップを持つシリーズ展開も特徴です。

現在発売されている主な製品には、初代から続く「江戸むらさき（グリーンラベル）」、鰹節の風味を活かした高級タイプの「江戸むらさき 特級」、よりしっとりとした食感で人気シリーズの基幹である「ごはんですよ！」（登録商標第1228150号）があります。「ごはんですよ！」からは、椎茸を加えた「しいたけのり」や、昆布のうまみをプラスした甘口の「あまいですよ！」などが派生しています。その他にも、梅肉を混ぜた「梅ぼしのり」、唐辛子を加えた「唐がらしのり」、青じそ風味の「青じそのり」など、様々なバリエーションが展開されています。また、海苔を角切りにした「角切りのり」シリーズ（ごまラー油味、甘辛かつお醤油味）や、生海苔を使用した「江戸むらさき 生のり」など、食感や風味に変化を持たせた商品も存在します。

過去には、「なめ茸むらさき」や「するめのり」、「幼なじみ」（子供向け甘口）、鮭を配合した「石狩」、減塩・減糖の「お父さんがんばって！」、栄養成分を強化した「オ!イCです」「OCaさん鉄だって！」、乾燥海苔タイプの「海苔もかわった」、甘炊き製法の「いただきます」、海苔の葉が長い「ハ長調」、辛子明太子や鰹節、帆立貝柱、花椒などを加えた様々な製品が発売されていました。「ごはんですよ！」シリーズからも、子供向けにアレンジされた「元気っ子」や「甘口 ジャンケン・ポン」、減塩タイプなどが登場し、時代のニーズに応じた製品開発が行われてきたことが伺えます。「江戸むらさき」シリーズは、長年にわたり日本の家庭の食卓を彩り続けている、国民的な海苔佃煮と言えるでしょう。

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