池田亀鑑

池田亀鑑：近代源氏学の礎を築いた国文学者

池田亀鑑（いけだ きかん、1896年 - 1956年）は、日本の国文学者であり、平安文学、とりわけ『源氏物語』研究において、近代源氏学の基礎を築いたと評される第一人者です。鳥取県に生まれ、東京高等師範学校を経て東京帝国大学を卒業後、東京大学で教鞭を執りながら、数々の大学や学校で教壇に立ちました。1948年には東京大学より文学博士の学位を取得しています。名前の読み方については「きかん」が一般的ですが、「かめのり」とする資料も存在します。

教育者としての歩みと多様な活動

池田は、東京大学国文学科助教授として長く勤務しましたが、教授への昇進は58歳と比較的遅くなりました。その背景には、当時の大学における複雑な人事事情があったとされています。しかし、助教授時代から数多くの学校で教鞭をとり、古典文学の啓蒙にも尽力しました。1930年にはNHKの前身であるJOAKでラジオ講座を担当するなど、大衆への古典文学普及にも貢献しています。

池田が兼任講師を務めた学校は多岐に渡ります。旧制第一高等学校、二松学舎専門学校、大正大学、神奈川県女子師範学校、東京女子専門学校（後の東京女子大学）、東京家政学院、慶應義塾大学、帝国女子専門学校（後の相模女子大学）、津田英学塾、早稲田大学、東洋大学、そして立教大学など、幅広い分野の教育機関で活躍しました。特に、1946年から日本女子専門学校（後の昭和女子大学）では、兼任教授、文学科科長、評議員を歴任しています。

源氏物語研究への貢献：文献学的アプローチ

池田亀鑑の最大の功績は、なんと言っても『源氏物語』研究における貢献でしょう。彼は、芳賀矢一がドイツから導入した文献学の方法を日本古典文学研究に適用しました。その方法論は博士論文『古典の批判的処置に関する研究』（1941年）で体系的に示され、代表作である『校異源氏物語』（1942年）へと結実しました。さらに、この『校異源氏物語』に索引や解説などを加え、大規模な注釈書『源氏物語大成』（1953-1956年）を完成させました。これらの研究は、多様な写本の異文を比較検討し、古典作品の原型に迫ろうとする、本文批判を軸とした精密な文献学的アプローチを特徴としています。

小説家としての顔

池田は、国文学者としての顔だけでなく、小説家としても活動していました。大正時代から昭和初期にかけて、複数のペンネームを使い、少年少女向けの小説を多数執筆しました。代表作に冒険活劇「馬賊の唄」があり、その作品群は、彼の文学的な多面性を示すものです。

膨大なコレクションと池田本

池田は長年の研究活動を通して、約2000点にのぼる古典籍などを収集しました。これらのコレクションは、現在「桃園文庫」として東海大学に保存・デジタル化されています。また、鎌倉時代末期に書写されたとされる『源氏物語』の写本（通称「池田本」）は、天理大学附属天理図書館に所蔵され、影印本も刊行されています。

死後も続く影響

池田亀鑑は、1956年、8巻からなる『源氏物語大成』の完成直後に亡くなりました。しかし、その業績は死後も高く評価され続け、『池田亀鑑選集』の編纂や、没後55年を機に「池田亀鑑文学碑を守る会」による「池田亀鑑賞」の創設など、様々な形でその功績が後世に伝えられています。数多くの著作、校注本、そして彼の研究方法論は、現代の古典文学研究に大きな影響を与え続けています。 彼の生涯と業績は、日本の国文学研究史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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