池田年穂

池田年穂：歴史と翻訳の架け橋

池田年穂氏は、慶應義塾大学名誉教授であり、歴史学者、そして多作な翻訳家として広く知られています。専門は移民論、移民文学、そしてアメリカ社会史。その業績は、単なる学問の枠を超え、現代社会の重要な課題を多角的に照らす光となっています。

学究の道と翻訳への情熱

1950年、横浜市に生まれた池田氏は、横浜国立大学学芸学部附属横浜小学校、同中学校、東京学芸大学附属高等学校を経て、慶應義塾大学文学部史学科を卒業、同大学院修士課程を修了しました。在学中には、海保眞夫氏や可児弘明氏といった著名な研究者から薫陶を受けました。

池田氏の研究活動は、移民問題を深く掘り下げた論文が多くを占めます。その中でも注目すべきは、「福原有信と揺籃期の近代薬事制度」という共著論文です。この論文は、「日本における化学史文献：日本篇」化学史研究Vol.34にも掲載され、歴史研究における池田氏の貢献を示すものとなっています。

2015年に慶應義塾大学を定年退職するまで、池田氏は大学における様々な職務をこなし、一橋大学や東京外国語大学でも講師を務めるなど、精力的に活動しました。その集大成とも言える最終講義は、「翻訳の世界―Traduttore, traditore!」という挑発的なタイトルで、翻訳という営みへの深い洞察を示しました。


高く評価される翻訳活動

池田氏の翻訳活動は、海保眞夫氏の遺志を継ぐかたちで2009年以降本格化しました。慶應義塾大学出版会を中心に、多くの重要な著作を日本語に翻訳、紹介してきました。

その翻訳活動は、単なる言語の変換にとどまらず、世界の知を日本の読者へ届ける重要な役割を果たしています。翻訳の対象は多岐にわたり、文学、ノンフィクション、伝記など、幅広いジャンルをカバーしています。


注目すべき翻訳作品

特に、ティモシー・スナイダー、タナハシ・コーツ、ピーター・ポマランツェフといった、現代社会の課題を鋭く切り込む著述家の作品を数多く翻訳していることが注目に値します。スナイダーの『赤い大公』や『ブラックアース』、コーツの『世界と僕のあいだに』、『僕の大統領は黒人だった』、ポマランツェフの『プーチンのユートピア』など、いずれも高い評価を得ており、日本の読者にとって現代世界を理解するための重要な羅針盤となっています。

さらに、近年の翻訳活動では、カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ『わたしは、不法移民』、キャシー・パーク・ホン『マイナーな感情』といった、アメリカのレイシズム問題を深く掘り下げた作品も翻訳しています。これらの作品は、現代アメリカ社会における複雑な問題を理解するために不可欠な資料となっています。

また、日系移民の歴史を扱った作品も多く翻訳しており、日系アメリカ人の歴史と経験を日本の読者へ伝える役割を担っています。


数々の受賞歴

池田氏の功績は高く評価されており、数々の賞を受賞しています。

Canadian Prime Minister's Award for Publishing: ユエンフォン・ウーン著『生寡婦』の翻訳で受賞。
義塾賞: 「ティモシー・スナイダー著『赤い大公――ハプスブルク家と東欧の20世紀』の翻訳等一連の業績」で受賞。

これらの賞は、池田氏の翻訳活動が、単に言語を翻訳するだけでなく、文化交流と国際理解に大きく貢献していることを示しています。


歴史と現代社会をつなぐ翻訳

池田年穂氏の翻訳活動は、単なる言語の変換を超えて、歴史と現代社会、そして異なる文化を繋ぐ重要な役割を果たしています。その功績は、日本の知的文化に大きな影響を与え続けており、今後もその活動を注視していく必要があります。

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