池田町ブドウ・ブドウ酒研究所

池田町ブドウ・ブドウ酒研究所（ワイン城）

北海道中川郡池田町に位置する池田町ブドウ・ブドウ酒研究所は、地方公営企業として運営されています。その外観がヨーロッパ中世の古城に似ていることから、「ワイン城」という愛称で広く親しまれています。

この取り組みは、1963年に日本国内で初めて自治体が手掛けるワイナリーとして始まりました。池田町は、1952年の十勝沖地震とそれに続く冷害によって基幹産業である農業が甚大な被害を受けた経験から、地域に安定した産業基盤を築く必要性を強く感じていました。当時の町長であった丸谷金保氏は、1960年に策定した「新農村建設事業計画」に基づき、町内に自生するヤマブドウに新たな可能性を見出し、翌年からその栽培試験を開始しました。

ブドウ栽培や加工の研究は、1962年に設立された池田町農産物加工研究所で本格化しました。1963年には、全国の自治体として初めて酒類試験製造免許を取得。さらに、ソ連（当時）の研究所での調査により、池田町のヤマブドウが良質なワインに適した「アムレンシス亜系」であることが判明したことも、ワイン事業への大きな推進力となりました。そして1964年、ブドウの研究開発とワイン製造を担う「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」が設立されたのです。

当初は期限付きの製造免許でしたが、1971年には果実酒類の永久免許を取得。製造・販売体制を強化し、主力ブランドである「十勝ワイン」「十勝ブランデー」の市販を開始しました。ワインの売上は販売開始からわずか3年で飛躍的に伸び、旧研究所の施設では製造能力が追いつかなくなりました。そこで、新たな製造拠点として建設されたのが現在の「ワイン城」です。建設費用約6億3,600万円は全額を起債で賄い、10年間での償還を目指すという大胆な計画でしたが、ヨーロッパ古城風のユニークな建物が観光客を惹きつけ、人気スポットとなったことで、計画通りに起債を償還することができました。

ワイン城は、単なる製造工場にとどまらず、観光施設としての機能も強化されてきました。2003年からは2年をかけて大規模なリニューアルを実施。敷地内に新たな製造工場を建設して瓶詰めラインを移設し、ワイン城本体にはエレベーターや広々としたショッピングエリアなどを設置しました。これにより、見学者はより快適にワイン製造の過程を学び、商品を選べるようになりました。

現在のワイン城は、観光施設として様々な魅力を持っています。ブドウ展示園では、池田町独自の開発品種である「清舞」や「山幸」のブドウの樹を見ることができます。地下2階の熟成室では、樽やビンで熟成されるワインやスパークリングワイン、年代物の貴重なワインなどが眠る様子を見学できます。廊ミュージアムでは、寒冷地でのブドウ栽培の苦労や、十勝ワイン事業の歴史に関する展示があります。1階のショッピングエリアでは、十勝ワインはもちろん、地元池田町の特産品が豊富に並びます。また、ワイン事業の立役者である丸谷町長の言葉や歴代のワインボトルが展示されているコーナー、ブランデー蒸留室の見学窓も設けられています。2階のライブラリではワイン関連書籍を閲覧できるほか、試飲サービスも提供されています。3階には、かつての応接室を公開した「城主室」や、海外コンクールでの受賞歴を示す賞状が飾られた講堂などがあります。最上階のレストランフロアでは、十勝産の食材を活かした洋食やテイクアウトメニューを楽しむことができ、屋上の展望テラスからは十勝平野の田園風景、日高山脈、池田町の街並みを一望できます。この展望からの夕日は「日本の夕陽百選」にも選ばれています。

ワイン城の敷地内には、池田町出身のアーティスト、DREAMS COME TRUEに関する施設もあります。旧物産の館を利用した「DCTgarden IKEDA」では、吉田美和氏の衣装などが展示されています。また、2009年からは「DREAMS COME TRUE VINEYARD」（通称：ドリカムブドウ園）を町とDREAMS COME TRUE側が共同で運営しており、ワイン用ブドウを栽培しています。

池田町ブドウ・ブドウ酒研究所は、池田町の企業会計に計上されており、独立採算で経営されています。その利益の一部は一般会計などに繰り出され、町の経済や財政、産業に大きく貢献しています。地域活性化の成功例として知られ、毎年秋には「池田町秋のワイン祭り」のメイン会場となるなど、町の重要なシンボルであり続けています。

アクセスは、道東自動車道池田ICから車で約15分。帯広からは一般道で約30分です。公共交通機関ではJR池田駅から徒歩約10分と、比較的アクセスしやすい場所にあります。駐車場も約100台分が用意されています。施設は年末年始を除いて開城しており、入館料は無料で見学できるエリアが多くあります。2020年の大規模改修を経て、施設の運営は一般社団法人いけだワイン城に移管されています。

地域の困難を乗り越えるために生まれたワイン事業は、独自の発展を遂げ、ワイン城を核とした観光振興と地域経済への貢献という形で、現在も池田町の根幹を支えています。

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