汪兆銘狙撃事件

汪兆銘狙撃事件：暗殺未遂事件の真相と影響

1935年11月1日、中華民国の首都南京で、汪兆銘行政院長が狙撃されるという衝撃的な事件が発生しました。この事件は、単なる暗殺未遂にとどまらず、当時の日中関係、中国国内の政治情勢に大きな影響を与えることとなりました。

事件の背景：複雑な日中関係と国内の対立

満州事変後、汪兆銘は国民政府の行政院長として、日本との関係改善を目指す「一面抵抗、一面交渉」という方針を掲げていました。しかし、満洲国の存在を黙認するような姿勢は、抗日派からの強い批判を招きます。汪兆銘は、共産勢力の拡大を日本による侵略よりも危険視し、日本との対話を通じて事態の打開を図ろうとしましたが、その対日宥和政策は、国内の反発を招き、暗殺計画へと繋がっていきました。

一方、日本側も広田弘毅外相のもと、「日満支三国の提携共助」による関係改善を目指していました。汪兆銘は、日本のこうした姿勢に応じ、満洲国承認はできないものの、赤化防止の必要性を訴え、中国国民に満洲問題を忘れさせる以外にないとまで語り、日本との妥協を図ろうとしました。

実行：厳戒態勢の中での決行

汪兆銘の対日宥和外交に不満を持つ人々は、暗殺計画を実行に移します。1935年11月1日、中国国民党中央委員会の第六次全体会議が開催される中、実行犯グループは通信記者を装い、ピストルを携行して会場に潜入しました。

事件の経過：銃弾がもたらした混乱

会議終了後、林森主席、蔣介石委員長、汪兆銘行政院長らが記念撮影を行うため広場に集まったところ、汪兆銘の背後から銃弾が浴びせられました。汪兆銘は3発の銃弾を受けましたが、幸いにも命に別状はありませんでした。しかし、背中に残った銃弾は摘出できず、その後長年にわたって彼を苦しめ、最終的には死因の一つとなります。

事件後、実行犯たちは逮捕されましたが、その背後関係は謎に包まれたままでした。事件の背景には、国民党内の対立、抗日運動、そして複雑な日中関係が絡み合っていたと考えられています。

事件の影響：親日路線の終焉と日中対立の激化

汪兆銘狙撃事件は、その後の日中関係に大きな影響を与えました。事件を機に、蔣介石・汪兆銘合作政権による対日親善外交は破局に向かい、中国国内では抗日運動が激化します。事件当日、国民政府は緊急集会を開き、孔祥熙を臨時行政院長に任命。事件発生の報が伝わると、上海の公債市場は混乱し、銀行には取り付け騒ぎが発生するなど、経済にも大きな影響が出ました。

日本側も、汪兆銘狙撃事件とそれに続く孔祥熙によるイギリスからの借款という事態を受け、従来の対中政策の見直しを迫られます。その後も、中山水兵射殺事件、唐有壬暗殺事件など、日本関係者へのテロが続発し、日中関係は悪化の一途をたどります。

汪兆銘のその後：転落と死

狙撃事件後、汪兆銘はヨーロッパで療養生活を送りますが、帰国後、蔣介石との対立を深め、重慶を脱出。その後、日本との提携による新政権を樹立しますが、その行動は中国国内で大きな批判を浴びました。1944年、汪兆銘は名古屋で病死。狙撃事件の際に摘出できなかった銃弾が原因で多発性骨髄腫を発症したことが死因の一つとされています。

汪兆銘狙撃事件は、日中関係の転換点となっただけでなく、汪兆銘自身の運命をも大きく左右する出来事となりました。事件の背景には、当時の複雑な国際情勢、中国国内の政治対立、そして人々の様々な思惑が絡み合っており、その真相は今もなお議論の対象となっています。

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