沈黙の春

沈黙の春（Silent Spring）

レイチェル・カーソンによって1962年に発表された『沈黙の春』は、DDTをはじめとする農薬の危険性を告発した作品として、世界中で大きな影響を与えました。書名は、農薬の影響で鳥たちが姿を消し、生命の息吹が感じられない静かな春が来るという警鐘を意味しています。

発売からわずか半年で50万部を売り上げ、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにも名を連ねるなど、社会現象を巻き起こしました。

日本語訳

日本では、青樹簗一訳による新潮社版が広く読まれてきました。初版は1964年に南原実名義で『生と死の妙薬』として刊行されました。2024年9月には、渡辺政隆訳による光文社古典新訳文庫版も登場しています。

社会的影響と評価

『沈黙の春』は、農薬の残留性や生物濃縮といった、当時あまり知られていなかった問題点を社会に提起しました。この著作をきっかけに、農薬の基準値が設けられ、規制が強化されるようになりました。この動きはアメリカだけでなく、世界中の先進国に広がり、現代の環境保護思想の源流の一つとなっています。

日本においても、牛乳に含まれるBHCの危険性や、カネミ油症事件、四大公害病などを経て、PCBやメチル水銀といった化学物質の危険性が認識され、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律など、様々な規制が生まれることになりました。

これらの規制は、従来の毒劇物規制とは異なり、長期的な人体への残留や、じわじわと健康を害するリスクに対応したものであり、化学物質の安全性に関する考え方を根本的に変えるものでした。

現代の視点からの再評価

執筆から40年以上が経過し、科学的知見も進歩した現在、『沈黙の春』の内容には、見直されるべき点も存在します。例えば、DDTの発がん性については、その後の研究で確定的な証拠は見つかっていません。国際がん研究機関の発がん性評価においても、グループ2Bに分類されています。

ワニの異常に関する記述についても、オスのワニが生まれなくなった原因は、DDTではなく卵の温度だったことが判明しています。しかし、ワニの数が激減したことや、生まれたオスの異常など、他の現象については、依然として農薬との関連が指摘されています。

DDT禁止とマラリア

DDT禁止によって発展途上国でマラリア患者が増加したという批判もありますが、これは誤解に基づいています。スリランカ政府は、DDT散布を中止した結果、マラリアが再流行したため、DDTを再開しましたが、蚊がDDT耐性を獲得していたため効果がなく、マラチオンを使用することでマラリアを抑制しました。その後WHOはスリランカのマラリアを撲滅したと発表しました。

また、カーソンはマラリア予防目的でのDDT使用は否定しておらず、農薬利用などマラリア予防以外の目的でのDDTの利用を禁止するべきだと主張していました。

ニューヨーク大学の研究者たちは、カーソンを批判する人々がDDTの安全性の根拠として引用する古い報告書に恣意的な操作があることを指摘し、現代社会における科学への信頼低下が、カーソンへの不当な中傷を招いていると述べています。

環境保護運動への貢献

『沈黙の春』は、それまで軽視されていた環境問題に光を当て、アースデイや国連人間環境会議のきっかけとなるなど、環境運動の先駆けとなりました。生態系と人間の関わりを見つめ、人間が生きるための環境保護の重要性を訴えた功績は大きいと言えるでしょう。

ニューヨーク大学ジャーナリズム学部が選出した『20世紀アメリカジャーナリズムのTOP100』では、第2位に選ばれています。

カーソンの主張

生物濃縮の怖さ: 農薬が食物連鎖を通じて生物に蓄積され、生態系に深刻な影響を与える。
生物[[農薬]]の利用: 化学農薬に頼らず、生物を利用した防除方法を推進する。
自然をコントロールする愚かさ: 人間が自然を意図的に操作することで、予期せぬ結果を招く。
単一植物栽培の脆弱性: 特定の植物ばかりを植えることで、病害虫の蔓延を招きやすくなる。

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