沢辺琢磨

沢辺琢磨の生涯と業績

日本の正教会において、沢辺琢磨は初めての司祭であり、彼の人生は非常に興味深いものです。1834年、土佐国の郷士の家庭に生まれた琢磨は、幼名を数馬とし、武術に秀でた少年でした。後に江戸に進出し、鏡心明智流の道場でその腕を磨くも、酒に酔った帰り道に拾った金時計を売るという不正行為に関与し、逃亡を余儀なくされました。この事件が彼の人生を大きく変える契機となりました。

箱館にたどり着いた琢磨は、剣術の腕を活かして道場を開き、地元の名士とも親交を結びました。そこで出会った正教徒のニコライ神父との関係が、彼の運命を一層定めていくことになります。商業的な目的で日本に来ていたニコライでしたが、琢磨は彼の日本研究に警戒心を抱きつつも、やがてキリスト教に触れるようになります。最初は疑いの目で見ていた琢磨でしたが、その教えに惹かれ、1868年に秘密裏に洗礼を受け、初めての日本人クリスチャンとして誕生しました。

琢磨はその後、信教への決意を固めつつ、箱館神明社の宮司として祭祀を行いながら、ハリストス正教への信仰に公言し、結果として家族への迫害を受けることになります。しかし、彼は伝道活動を続け、歴史の中で重要な役割を果たしていきました。

1875年には日本人司祭の選出が行われ、琢磨はその候補者として選ばれます。彼はカムチャツカから来たパウェル主教によって叙聖され、日本初の正教司祭となりました。その後、琢磨は各地の教会で聖体礼儀を執り行い、洗礼を授け、多くの信者を育てました。

教会における琢磨の活動は多岐にわたり、特に東京復活大聖堂の建設にも関与しました。その際、教会の資金を困窮する神品や伝教者の生活費に回すべきだと主張したことが、ニコライとの間に緊張をもたらす場面もありました。しかし、二人はその後和解し、明治22年に建設された教会は多くの信者にとって重要な場となります。

彼の人生は、信仰を持つ者として、また社会の一員として様々な困難に直面したことから、理解できる範囲を超えた崇高さを持ちます。1912年、師であるニコライ大主教が亡くなった翌年、琢磨は79歳でこの世を去ります。彼の最期の言葉は「聖堂…」であり、その生涯における奉献の精神を如実に表現しています。

彼を偲ぶ埋葬式は盛大に行われ、多くの信者によってその業績が記憶されています。琢磨の生涯は、信仰の力とそれがもたらす変化を示す重要な物語であり、彼のような人物がいたことは日本における正教会の歴史に記され、今なお人々に感動を与え続けています。

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