河原田秀夫

河原田秀夫氏は、1936年に誕生した日本の卓越した工学博士であり、特に応用数学、その中でも自由境界問題の分野で顕著な貢献を果たした研究者です。現在は国立千葉大学名誉教授として、長年の教育と研究活動の功績が称えられています。

氏の学究生活は、まず1955年に東京都立新宿高等学校を卒業したことから始まります。高等教育の第一歩として選んだのは慶應義塾大学工学部計測工学科で、1960年にここを卒業しました。計測工学で培われたデータ解析やシステムモデリングの視点は、後の応用数学研究、特に複雑な物理現象の数理モデル構築に活かされたと考えられます。さらに専門的な知見を深めるため、東京大学大学院数物系研究科応用物理学専攻に進学。応用物理学という分野で、数学的手法を用いた自然現象の解明に取り組む中で、研究者としての確固たる基盤を築きました。1965年には博士課程を無事修了し、同年、工学博士の学位を取得しています。この博士論文における研究が、氏のその後のキャリアパスを決定づける重要な一歩となりました。

博士号取得後、河原田氏は1965年から東京大学工学部にて研究者の道を歩み始めました。当初は助手として、指導教官の下で研究手法を学びながら自身のテーマに取り組みました。1967年には講師に昇任し、研究活動に加え、大学教育の現場で学生への指導を開始しました。研究者と教育者の二足の草鞋を履きながら、自由境界問題を含む応用数学のfrontierを開拓していきます。さらに1983年には同学部の助教授となり、より責任のある立場で研究室の運営や後進の指導にあたりました。東京大学での約20年間の勤務は、氏が研究者としての独立性を確立し、自らの研究領域を確立する上で非常に重要な時期でした。

1984年、河原田氏は活躍の場を千葉大学工学部に教授として着任しました。千葉大学では、応用数学、特に自由境界問題に関する最先端の研究を推進すると同時に、教育者として情熱を注ぎ、多くの優秀な学生を育て上げました。教授として、研究室を主宰し、自身の研究テーマを深めながら、後進の指導に尽力しました。自由境界問題は、相変化（水が氷になるなど）、物質の拡散、流体の浸透など、現実世界における多くの物理現象を数学的に記述する際に現れる難問であり、その理論解析や効率的な数値解法の開発は、工学的な応用にとって極めて重要です。

氏の長年にわたる研究成果の集大成の一つとして、1989年に東京大学出版会から刊行された著書『自由境界問題-理論と数値解法』が挙げられます。この書籍は、自由境界問題の数学的な理論体系と、コンピューターを用いた数値計算による practical な解法について、網羅的に解説したものです。この分野の研究者や大学院生にとって、基礎から応用までを学ぶための標準的なテキストとして広く利用されており、氏の研究がアカデミックな世界に与えた影響の大きさを物語っています。

河原田氏は、研究・教育活動に加え、学術団体の運営にも積極的に貢献しました。特に、日本の応用数学分野における主要な学会の一つである日本応用数理学会では、重要な役割を果たしました。2000年度には同学会の第11代会長という要職を務め、学会の活性化、国内外の研究者間の交流促進、および応用数学研究の一層の発展にリーダーシップを発揮しました。学会会長としての活動は、研究コミュニティ全体の進歩に大きく寄与しました。

研究者、教育者、そして学術振興者として、長年にわたり日本の工学および応用数学分野に多大な貢献を果たした功績により、河原田秀夫氏は国立千葉大学名誉教授の称号を授与されました。その学術的遺産は、著書を通じて、また氏の薫陶を受けた多くの研究者や技術者を通じて、今後も受け継がれていくことでしょう。氏の研究と教育は、応用数学が様々な現実世界の問題解決に貢献できる可能性を示し、後続世代の研究者にとってinspiringな事例となっています。

もう一度検索