油長酒造

油長酒造株式会社

奈良県御所市に位置する油長酒造は、享保4年（1719年）に創業した300年以上の歴史を持つ老舗蔵元です。葛城山・金剛山の美しい稜線を望むこの地で、日本酒造りの伝統を守りながらも、革新的な取り組みを続けています。元々は慶長年間から製油業を営んでおり、その屋号「油長長兵衛」が現在の社名の由来となっています。1719年に良質な水を求めてこの地に移り、酒造業へと転じました。

油長酒造の酒造りを特徴づけるのは、徹底した「無濾過・無加水・生酒」へのこだわりです。特に主要銘柄である「風の森」は、まだ生酒の流通が一般的でなかった時代に、この製法を貫いて登場し、その前衛性から注目を集めました。現在では、製造される酒の約90%が生酒という異例の蔵です。

この生酒造りを可能にしているのが、独自の技術開発です。発酵タンクの温度を精密に管理できるオリジナルタンクや、酸化を極力抑え、酒の風味を損なわないための上槽法「笊籬（いかき）採り」などを確立。これらの技術により、溶存酸素濃度を低く保ち、搾りたてのフレッシュな状態を維持しています。これらの技術には、室町時代の酒造関連文書からヒントを得たものもあり、伝統と科学技術の融合が伺えます。

主要ブランドは、奈良酒と称される「鷹長」「風の森」「水端」の三つです。

「鷹長」は、日本酒発祥の地とされる奈良の伝統、特に室町時代に正暦寺で確立された画期的な酒母技術「菩提酛」を受け継ぐ銘柄です。正暦寺で造られた菩提酛を用い、伝統的な製法を礎とした安定性の高い酒造りを行っています。

「風の森」は、1998年に誕生した油長酒造を代表するブランドです。名の由来となった風の森峠のように、生まれたてのフレッシュさを追求しています。無濾過・無加水・生酒として出荷され、柑橘系の爽やかな風味とジューシーな味わいが特徴です。地元の契約農家が栽培した奈良県産秋津穂や、葛城山麓のミネラル豊富な地下水を主に使用しています。また、「ALPHA」シリーズでは、精米しない玄米を使うなど、枠にとらわれない実験的な酒造りにも挑戦し、革新性を探求しています。

「水端（みづはな）」は、2021年に登場した新機軸の銘柄です。13代目蔵主が室町時代の醸造技術書「御酒之日記」を紐解き、当時と同サイズの大甕を用いた仕込みを復活させました。冷蔵設備がない時代の温度管理を再現するなど、古典に基づいたユニークな酒造りを行っています。

13代目蔵主である山本長兵衛氏（山本嘉彦）は、歴史を研究する中で、江戸時代初期には四季を通じた多様な酒造りが行われていたことに着目。現代の良好な流通環境だからこそ、かつてのように自由で多様な酒造り、とりわけ火入れや濾過をしない「生酒」「無濾過」の可能性を追求しています。佐賀県の光栄菊酒造が復活するきっかけを与えた人物としても知られています。

油長酒造は、冬季に集中するのが一般的だった酒造りを、現在は季節を問わず年間4回行う体制を確立しています。また、農業との共存共栄を理念とし、地元契約農家と連携した無農薬・無化学肥料での米作り支援や、「農家酒屋」と称して農作業への一般参加を募るイベント企画など、地域との新しいコミュニティ作りにも力を入れています。2017年からは、秋津穂栽培農家、そしてEXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチ氏とのコラボレーションによる日本酒も誕生させています。

さらに、2018年には蔵の向かいにある古民家を改装し、「大和蒸溜所」を設立。日本酒造りで培った発酵・蒸留の技術を活かし、ジンの製造を開始するなど、新たな挑戦も行っています。こうした革新的な取り組みは各方面で評価されており、2023年の日経トレンディ「イノベーティブ酒蔵ランキング2023」では第3位にランキングされています。

油長酒造は、「歴史的背景を持った古典的な酒造りと現代のエッセンスを組み合わせ、次の時代に日本酒を伝えていく」という理念のもと、伝統を守りつつ、常に新しい日本酒の可能性を探求し続けています。

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