治承の大火

治承の大火（じしょうのたいか）とは、治承2年（西暦1178年）に平安京を襲った大規模な火災を指します。この災害は、前年の安元の大火、通称「太郎焼亡」に続くものであったため、人々からは「次郎焼亡（じろうしょうぼう）」とも呼ばれ、当時の都に大きな影響を与えました。

火災が発生したのは、治承2年3月24日の夜半とされています。ただし、この正確な日付については、歴史的な記録の間で若干の相違が見られます。同時代の公卿の日記である『玉葉（ぎょくよう）』には3月24日と記されている一方で、『後清録記（こうせいろくき）』には4月24日の出来事として記録されており、後者の記述を採る説も存在します。

炎は、都の七条東洞院（現在の東本願寺の南東角にあたる区域）付近から上がり始めました。折からの強い東風にあおられた火は、瞬く間にその勢いを増し、西へと向かって延焼していきました。火炎は主に七条通に沿って広がり、朱雀大路に至るまでの広範囲にわたって建物をなめ尽くしました。その被害範囲は、実に三十数町に及んだと記録されています。

この七条通沿いの地域は、当時の平安京において特に多くの人々が暮らし、家屋が密集していた場所でした。そのため、火災は都の中心部を直撃し、甚大な人的・物的被害をもたらしました。さらに悲劇的だったのは、この被災地域の一部が、前年の安元の大火（太郎焼亡）において奇跡的に類焼を免れたエリアと重なっていたことです。わずか一年足らずの間に再び大火に見舞われたことは、都の人々に計り知れないほどの不安と絶望感を与え、その衝撃は計り知れないものでした。

なお、鴨長明の有名な随筆『方丈記』には、「治承の辻風」と呼ばれる災害の記述がありますが、これは治承4年（1180年）4月に発生した竜巻による被害であり、この治承の大火（次郎焼亡）とは全く別の自然災害であることを区別しておく必要があります。治承の大火は、当時の平安京の脆弱性と、災害が都にもたらす破壊的な影響を改めて浮き彫りにした出来事として、歴史に名を刻んでいます。

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