沼垂 (新潟市)

沼垂（ぬったり）

新潟県新潟市に伝わる由緒ある地名、それが「沼垂」（ぬったり）です。かつては独立した町として栄え、現在は新潟市の中央区と東区にまたがる広い範囲を指す歴史的地名であるとともに、新潟市東区の一部には現在も大字としてその名前が残されています。大字としての沼垂は、現在の山の下閘門排水機場周辺など、限られた区域にとどまっています。

地名の起こりと歴史の変遷

「沼垂」という地名は、非常に古い歴史を持っています。その起源は、西暦647年（大化3年）に大和朝廷によって設置されたとされる古代の砦、「渟足柵（ぬたりさく）」に由来すると考えられています。時の流れとともに「渟足柵」は「沼垂城」と転じ、やがて現在の「沼垂」という呼び名へと変化していきました。

平安時代には既に地名として存在が確認されており、江戸時代には「沼垂町」として独自の発展を遂げました。地理的には、当初は阿賀野川（現在の通船川を本流とし、信濃川河口付近に河口があった頃の）の右岸、砂丘地帯に位置していたと推定されています。南北朝時代には「沼垂湊（ぬったりみなと）」と呼ばれた記録が残るなど、古くから港町として栄えていました。

しかし、17世紀に入ると地域の水系に大きな変化が訪れます。1631年（寛永8年）の洪水などを契機に、信濃川が次第に阿賀野川と合流するようになり、阿賀野川の右岸地域は激しい河川の侵食に晒されました。これにより、沼垂町は度重なる移転を余儀なくされ、最終的に1684年（貞享元年）に現在の栗ノ木川流域へと町が移されました。この頃の沼垂町は、対岸の新潟町と同様に堀が多く巡らされた町並みでした。

当時の阿賀野川河口にあった沼垂町と、信濃川河口にあった新潟町は、合流した河口の利権を巡ってしばしば争いを繰り広げました。しかし、1727年（享保12年）の訴訟で沼垂町は敗れ、新潟町が河口の権益を独占することになります。さらに追い打ちをかけるように、1731年（享保16年）には新発田藩が掘削した松ヶ崎掘割が決壊し、阿賀野川の本流がそちらへ移ってしまいました。これにより、元の流路は水量が激減して水深が浅くなり、港としての機能が著しく低下しました。こうした出来事の結果、港町としての沼垂町は次第に活気を失い衰退し、新潟町との間の対立感情は長く残ることとなりました。

近代に入り、1889年（明治22年）には町村制の施行により正式に「沼垂町」となります。そして、1914年（大正3年）4月1日、沼垂町は新潟市に編入合併され、新潟市の大字の一つとなりました。

現在の沼垂地域

新潟市への編入後、沼垂の地域では順次住居表示が実施されていきました。これにより、かつて広範な地域を指していた大字としての沼垂は徐々に縮小し、現在では新潟市東区の山の下閘門排水機場周辺など、ごく一部にわずかに残るのみとなっています。

地理的には、信濃川の河口右岸付近に広がり、現在の新潟市中央区の東部と、新潟市東区の西部にまたがる地域が歴史的な沼垂の範囲にあたります。具体的には、北から時計回りに松島、新栗ノ木川を挟んで中央区の竜が島、通船川を挟んで榎町などと隣接しています。

新潟市に編入された当時の沼垂地域は、通船川を境におおまかに南西部と北東部に分けられます。

南西部（現在の新潟市中央区側）
通船川よりも南側に位置する地域です。この地域は、山ノ下地区の発展とともに、昭和10年代末頃には「山ノ下」とは異なる「沼垂」という地域名で認識されるようになりました。1940年代から1970年代にかけて、沼垂の一部から沼垂東、沼垂西、竜ヶ島、日の出、鏡が岡といった町名が順次分立し、現在の新潟市中央区の各町を形成しています。これらの町名は、いずれも1968年（昭和43年）以降に成立しました。

北東部（現在の新潟市東区側）
通船川よりも北側に位置する地域です。1898年（明治31年）に松島村から山ノ下新田が編入されてからは、この地域全体が「山ノ下」と総称されるようになり、南西部と同様に昭和10年代末には「山ノ下」として「沼垂」地域とは区別されるようになりました。この地域からも、1940年代から1970年代にかけて、旧沼垂の一部を母体として数多くの町名が分立しました。その主なものとして、臨港町、東臨港町、桃山町、秋葉通、秋葉、宝町、錦町、上王瀬町、月見町、松島、大山、北葉町、臨港、古川町、長者町、東新町、臨海町、浜町、神明町、古湊町、末広町などがあります。これらの町名の中には、かつての字名に由来するものや、企業・施設、開発の経緯などが反映されているものがあります。例えば、神明町は山ノ下神明宮にちなみ、古湊町はかつて阿賀野川の湊だった歴史を持ち、臨港町は開発を行った企業名に由来するといった特徴が見られます。現在、新潟市東区の大字として残る「沼垂」は、人口0人の区域で、北越紀州製紙新潟工場の一部や山ノ下閘門排水機場の一部などが含まれています。

かつては交通の要衝でもありましたが、新潟駅の移転に伴う路線の変更により、貨物駅となっていた沼垂駅は2010年（平成22年）に廃止されました。

長い歴史を経て、その形や範囲は変化し続けてきた沼垂ですが、古代からの地名として、そして新潟市の発展を支えてきた重要な地域として、その名は今も多くの人々に記憶されています。

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