沼尻墨僊

沼尻 墨僊（ぬまじり ぼくせん）

沼尻墨僊は、1775年4月14日に現在の茨城県土浦市で生まれた江戸時代後期の地理学者および天文学者です。彼は特に「傘式地球儀」の製作で知られ、地理学や天文学の発展に寄与しました。

生い立ちと教育

墨僊の幼名は常治で、土浦の旧家・五香屋の9番目の子として誕生しました。早くに町医者の養子となり、若い頃から仕立て商売に従事しつつ、両親への孝行に励みました。彼は勉学に熱心で、幼少期から地理学に興味を持つようになり、独自に研究書を著しましたが、特に誰に師事したのかは不明です。

地理学への情熱

寛政10年（1798年）には、土浦で行われた井戸掘りの模様を描いた「鑿井図」を制作しています。彼の地理学者としての道は、1800年に発表した「地球万国図説」で本格化しました。この書には世界各地の記述があり、彼が地球儀を作成し、寺子屋教育に利用したことも記されています。この時期には、当時の最高の地理書の模写や収集にも力を入れていました。

傘式地球儀の製作

墨僊が製作した傘式地球儀の中で、現存するものは安政2年（1855年）に作られたもので、墨僊の子孫である本間家が所蔵しています。この地球儀は、開くと地図が現れる仕掛けがあり、12本の骨と約40cmの柄を持つデザインです。江戸や大阪に送られたこの地球儀は、様々な諸侯にも届けられ、高い評価を受けました。各地への発送記録も残されており、神戸市立博物館や山口県防府市の毛利博物館にも保管されています。

教育活動

墨僊は「天章堂」という寺子屋を主宰し、土浦周辺の多くの子弟に対して書道や地理について熱心に教えました。彼は地球儀や自ら編纂した教科書「土浦名所案内」を用いて、多彩な教育を行っていました。彼の教育方法は生徒にとって非常に評価されていたようで、彼自身も真摯に教育に尽力していたと推測されます。

科学者としての多才さ

墨僊は地理学や地図作成に留まらず、天体観測や天文機器の製作など、天文学にも興味を持ちました。また、水利土木技術を駆使して土浦市の井戸掘りにも貢献し、実践的な技術者としての一面も持っていました。書道や絵画も学び、市内に彼の作品がいくつか残されています。

晩年と評価

墨僊の性格については詳細は不明ですが、養父への孝行から土浦藩から二度の褒賞を受け、寺子屋教育の功績により給米を受け、さらには帯刀を許可されています。これらのことから、彼は信頼される地理学者であり、生徒に慕われる教育者であったと推測されます。大正13年（1924年）には従五位が追贈され、その功績が評価されています。

もう一度検索