法務 (仏教)

法務の役割と歴史

法務（ほうむ）は、日本の仏教界において、寺院の庶務を管理し、僧尼を指導する職務を担っています。この役職の起源は、推古天皇32年（624年）に観勒が任じられたことに始まります。当初は、僧綱最高位の僧正が兼任していたため、重要な役割を果たしていましたが、承和元年（834年）の護命の入滅後、一時的にこの職は廃止されました。

その後、貞観14年（872年）には再興がなされ、法務は原則として真言宗の長、特に東寺一長者によって運営されることとなりました。同時に、法務の下に権法務が設置され、顕教系の僧侶がこの役職に任じられる慣習が生まれました。このように、法務は段階的にその地位を確立し、真言宗と顕教系寺院との間に明確な役割分担を生じさせていきました。

仁安2年（1167年）、後白河上皇によって新たに総法務が設けられ、実弟の覚性入道親王がこの地位に就任しました。これにより、形式的には総法務が仏教界の首座となりましたが、実質的な権力は依然として正法務を兼任する東寺一長者が握っていたのです。総法務は、その権力を背景に個別の寺院と院権力を結びつけ、六勝寺体制の形成に寄与しましたが、中世後期になるとその影響力は衰え、形骸化していきました。

室町時代に入ると、幕府が僧録所を設置し、法務、権法務、総法務は次第に名誉職となります。この時期には、仏教界全体が武家政権の影響下におかれるようになり、従来の権限は薄れていきました。江戸時代を経て、明治時代に至ってついにはすべての法務が廃止され、歴史の表舞台から姿を消すこととなりました。

権法務に関する異説

特に権法務に関しては、後の解釈においてさまざまな議論があります。『東寺長者補任』において延寿が権官として任じられたことが記録されていますが、これが密教の威信を示すための記述であるという見解も存在します。このため、実際には法務が二名存在し、その一方を「正官」、もう一方を「権官」と見なすことから「権法務」という呼称が生まれたのではないかという説もあります。

結論

法務は日本の仏教界において長い歴史を有し、時代ごとにその役割や権限は大きく変遷しました。正法務や権法務、総法務という階層の中で、真言宗と顕教系寺院の関係は複雑なものでしたが、最終的には武家政権の影響力により、その伝統的な役割は消失していきました。仏教界の権力構造の変化を理解するには、法務の役割とその歴史的背景を深く掘り下げることが重要です。

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