顕教

顕教とは：明らかに説かれる仏教の教え

顕教（けんぎょう）とは、仏教における教えの分類の一つで、秘密にされず、公然と、つまり明らかに説かれた教えを指します。これは、秘密主義的な教えである密教の反対概念として位置づけられます。

空海による顕教と密教の区別

真言宗の開祖である空海（くうかい）は、密教が他の仏教の教えよりも優れているという観点から、仏教の教えを分類しました。この分類を「教相判釈（きょうそうはんじゃく）」と呼びます。空海は、顕教と密教を以下のように区別しました。

顕教： 衆生（しゅじょう）を教化（きょうけ）するために、姿を現した釈迦如来（しゃかにょらい）が、誰に対しても隠すことなく、明らかに説き示した教え。
密教： 真理そのものを体現する大日如来（だいにちにょらい）が説いた教えであり、その内容が非常に奥深く、容易に理解できない秘密の教え。

空海は、それぞれの教えを代表する経典を以下のように位置づけました。

顕教の経典： 『華厳経（けごんきょう）』、『法華経（ほけきょう）』、『般若経（はんにゃきょう）』（一部を除く）、『涅槃経（ねはんぎょう）』など。
密教の経典： 『大日経（だいにちきょう）』、『金剛頂経（こんごうちょうきょう）』、『理趣経（りしゅきょう）』など。

天台宗における顕教と密教

最澄（さいちょう）やその弟子である円仁（えんにん）らは、中国の天台宗とは異なる、日本独自の天台教学の確立を目指しました。彼らは、『法華経』を中心として、他の仏教の経典をも包括しようとする「四宗兼学（ししゅうけんがく）」という立場を取りました。この立場から、彼らは顕教と密教の一致、すなわち「円密一致（えんみついっち）」を説きました。これは、顕教と密教は対立するものではなく、相互に補完しあうものであるという考え方を示しています。

このように、顕教は仏教の多様な教えの中でも、特に公然性と分かりやすさを重視する教えであり、仏教の歴史の中で重要な位置を占めています。

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