法廷画家

法廷画家とは、裁判所内で許可を得て裁判の様子を描く画家のことです。日本では、刑事訴訟規則や民事訴訟規則により、法廷内での撮影は裁判長の許可が必要とされています。しかし、裁判中に撮影が許可されることは稀であり、裁判の状況を文章で正確に伝えるのが難しいという背景から、法廷画家がその役割を担っています。

日本における法廷画家の役割

法廷画家が描く絵は、新聞やテレビなどのメディアで報道され、裁判の様子を社会に伝える重要な役割を果たしています。かつては、法廷内でのメモすら許されていなかったため、傍聴席で記憶した内容を基に法廷の外で絵を描くという方法が取られていました。しかし、1989年の法廷メモ訴訟の最高裁判決以降、法廷内でのスケッチが可能となりました。

法廷画家になるための特別な資格はありません。多くの場合、イラストレーターや漫画家など、絵を描くことを職業としている人がマスコミから依頼を受けます。また、マスコミ内部に絵が得意な人がいれば、報道記者と兼任することもあります。法廷画家の仕事は、速報性が求められるため、筆の速さが不可欠です。そのため、クロッキーなどの技法を用いる画家が多いのが特徴です。独自の作風で描かれることも多く、画家それぞれの個性が表れます。

通常、法廷画家は一般傍聴席を利用しますが、傍聴人数が多い場合は、司法記者クラブに一定の席が用意されます。そのため、司法記者クラブの枠で少なくとも1人は法廷画家が傍聴席に座ることになります。オウム真理教事件の裁判では、各メディアが雇った20人ほどの法廷画家が、タイムキーパー付きで一つの傍聴席を交代で使用し、持ち時間内でスケッチを行い、別室で清書して記者に渡していたという事例もあります。また、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の流行以降、法廷画家のために専用の席が用意されるケースも出てきています。

著名な法廷画家

数多くの事件で裁判の様子を描いてきた著名な法廷画家を紹介します。

大橋伸一：オウム真理教事件、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件などを担当。
田村角：附属池田小事件、和歌山毒入りカレー事件、小室哲哉の著作権詐欺事件などを担当。
くどう昭：ロッキード事件、オウム真理教事件などを担当。
吉田弘良：ロッキード事件、連合赤軍事件、オウム真理教事件、和歌山毒入りカレー事件などを担当。
石井克昌：オウム真理教事件、秋葉原通り魔事件などを担当。
幹英生：ロッキード事件を担当。
つがる団平：オウム真理教事件を担当。
榎本よしたか：ライブドア事件、江東マンション神隠し殺人事件などを担当。
小野眞智子：渋谷区短大生切断遺体事件、江東マンション神隠し殺人事件などを担当。
篠原ユキオ：和歌山毒物カレー事件、附属池田小事件などを担当。
竹本佐治：関西青酸連続死事件、広島小1女児殺害事件などを担当。
大橋由美子：相模原障害者施設殺傷事件などを担当。

これらの画家たちは、それぞれの事件で裁判の様子を正確かつ印象的に描写し、メディアを通じて広く社会に伝えてきました。

関連項目

法廷撮影：法廷内での撮影に関する規制について。
ぐるりのこと。：法廷画家を主人公とした2008年の日本映画。

外部リンク

* 法廷画家のお仕事 - 榎本よしたかによる法廷画の情報サイト

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