洞窟の獣

概要

『洞窟の獣』は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1904年から1905年にかけて執筆した初期の作品です。この短編は、主人公が巨大な洞窟内で迷子になり、未知の生物と遭遇する恐怖を描いた怪奇小説です。1918年に雑誌『ザ・ヴェイグラント』で発表されました。

あらすじ

主人公は、マンモスケーブの観光ツアー中に、巨大な洞窟内でガイドとはぐれてしまいます。一人でさまよううちに灯りも消え、絶望的な状況に陥ります。その時、何かが近づいてくる気配を感じ、暗闇の中で石を投げつけます。何かが倒れた音を聞いた後、さらに別の物音が聞こえ、それがツアーガイドの声であることに気づき、合流することができました。

ガイドと共に、先程の場所に戻ると、そこには白い体毛を持つ奇妙な類人猿のような生物が倒れていました。突然その生物は起き上がり、何かを叫んだ後、絶命します。その声から、その生物が長い年月を洞窟内で過ごした人間であることに主人公は気づくのです。

背景

ラヴクラフトはロードアイランド州プロヴィデンス在住で、実際にマンモスケーブを訪れた経験はありません。彼は、地元の図書館で資料を調べ、本作を執筆しました。マンモスケーブは1941年に国立公園に指定され、1981年には世界遺産に登録されましたが、本作の執筆当時は観光地化が進んでいた時期でした。

ラヴクラフトは後年、若い作家志望者に本作の原稿のコピーを送り、彼らが同じ年齢の頃に自分がどのような作品を書き、どのように文章を推敲していたかの参考資料として利用しました。彼は、自身の初期作品を振り返りながら、若い作家たちの育成に貢献しようとしていたことが伺えます。

作品の特徴

この作品では、ラヴクラフトの初期の作風が色濃く表れており、暗闇の中で何かが迫り来る恐怖、未知の生物との遭遇、そしてその生物が実は人間であったという衝撃的な結末が、読者に深い印象を与えます。また、ラヴクラフトが得意とする、具体的な描写と心理描写が組み合わさることで、読者はまるで自分が洞窟内にいるかのような感覚を味わうことができます。

収録

国書刊行会『定本ラヴクラフト全集1』矢野浩三郎監訳／佐藤嗣二訳 『洞窟に潜むもの』
創元推理文庫『ラヴクラフト全集7』大瀧啓裕訳 『洞窟の獣』

関連項目

* ラヴクラフト作品一覧

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