津久井城

津久井城

津久井城（つくいじょう）は、現在の神奈川県相模原市緑区に位置していた日本の城です。「筑井城」とも表記されることがあります。標高375メートルの城山に築かれた山城で、特に戦国時代には、後北条氏にとって甲斐方面からの武田氏に対する重要な防衛拠点として機能しました。

構造

津久井城は、城山という山全体を利用した大規模な山城です。特徴的な構造として、山麓に設けられた南北の根小屋（ねごや）が挙げられます。これは、戦闘員やその家族が居住し、平時の政務を行うための空間であり、初期の根小屋式城郭の典型的な形態を示すものとして注目されています。近年の発掘調査や研究により、山頂部にも物見櫓（ものみやぐら）や兵士が常駐するための建物が存在した痕跡が見つかっており、落城直前には山全体が強固な防御施設として機能していたことが明らかになっています。

城のすぐ脇には津久井湖がありますが、これは昭和時代にダム建設によって生まれた人造湖であり、城が存在した時代にはありませんでした。城山の中心部は現在の相模原市緑区根小屋に属しますが、かつて津久井郡に属していた城山町（現・相模原市緑区）の名称は、この城山の東麓にあることに由来しています。

歴史・沿革

津久井城の築城時期については諸説ありますが、鎌倉時代に三浦党に属する筑井氏によって築かれたのが始まりであると伝えられています。鎌倉時代後期には、大江（毛利）氏の流れを汲む津久井三郎が山麓に居館を構え、その周辺に行政施設が整備され、山頂部が詰の城として利用され始めたと推測されています。

城が本格的に軍事拠点として活用されるようになったのは、戦国時代の後北条氏の支配下に入ってからです。津久井の地は、後北条氏の本拠である小田原と、甲斐国の中心部を結ぶ重要な街道の結節点にあたるため、甲斐の武田氏との間で常に緊張関係がありました。後北条氏は、武田氏の侵攻に備えるため、城主の内藤氏をはじめとする在地勢力（津久井衆）に津久井城を守らせました。しかし、この地域は「敵半地（てきはんち）」と呼ばれるほど支配が安定せず、甲斐国境に近い奥三保（現在の裏丹沢）方面などは、武田氏傘下の小山田氏を中心とする郡内衆の勢力圏にありました。

永禄12年（1569年）に発生した三増峠（みませとうげ）の戦いでは、津久井城周辺は武田方の武将である小幡信貞や加藤景忠ら上野原衆によって押さえられていたため、城兵は戦場に駆けつけることができませんでした。

天正18年（1590年）、豊臣秀吉による後北条氏攻め、いわゆる小田原征伐が始まります。当時の城主であった内藤直行は小田原城に籠城していたため、津久井城は少数の老臣たちによって守られることになりました。徳川家康の配下であった平岩親吉（ひらいわ ちかよし）らの軍勢による攻撃を受け、同年6月25日に津久井城は開城します。後北条氏の滅亡後、津久井の地は徳川氏の直轄領となり、津久井城は廃城となりました。

江戸時代に入ると、津久井地域を治めるための拠点として、城跡の近くに陣屋が設置され、八木家などの代官が政務を執り行いました。

遺構

現在、津久井城跡には、かつての城郭を偲ばせる様々な遺構が残されています。山麓には家老屋敷跡や宝ヶ池、山中には防御のための堀切（ほりきり）などが良好な状態で確認できます。特に、根本（ねもと）・城坂（しろざか）地区で実施された発掘調査では、「御屋敷跡」と呼ばれる場所から、礎石を用いない掘立柱建物の跡や、城郭を構成する重要な要素である空堀（からぼり）や土塁（どるい）、火薬庫と考えられる焔硝蔵（えんしょうぐら）の跡などが検出されており、当時の城の構造や機能に関する貴重な手がかりが得られています。

現在、津久井城跡の主要部分は神奈川県立津久井湖城山公園として整備されており、歴史的な遺構を見学しながら散策できるハイキングコースが設けられています。

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