流れ者の物語

ライ・クーダーの『流れ者の物語』（原題：Boomer's Story）は、1972年にリリースされた彼の3枚目のソロアルバムです。このアルバムは、アメリカのルーツミュージックへの深い敬意と探求が込められた作品として知られています。ライ・クーダーは、この作品で自身のルーツであるブルース、フォーク、トラディショナルミュージックを独自の解釈で表現しています。

アルバムには、ダン・ペンとチップス・モーマンが共作した「ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」のインストゥルメンタルバージョンが収録されています。この曲は元々ジェイムス・カーの録音で有名ですが、クーダーはギターを中心としたアレンジで新たな魅力を引き出しています。また、スリーピー・ジョン・エスティスの楽曲も2曲収録されており、「スウィート・ママ」に加え、「ケネディ大統領」ではエスティス本人がリードボーカルを担当しています。このエスティスのパートは、テネシー州コリアーヴィルで録音されたという逸話も残っています。さらに、「旗のもとに集まろう」では、ランディ・ニューマンがピアノを演奏しており、豪華なゲストミュージシャンたちが作品に彩りを加えています。

『流れ者の物語』は、セールス的には大きな成功を収めることはできませんでしたが、音楽的な評価は非常に高い作品です。アメリカではBillboard 200へのランクインは逃しましたが、評論家からは「ライ・クーダーの傑作の一つ」と評されています。オールミュージックのレビューでは、5点満点中4点の評価を受け、「過去のレコーディングと同様に、彼はブルース界の伝説であるスリーピー・ジョン・エスティスやソングライターのダン・ペン、そして偉大なスキップ・ジェイムズを含む、アメリカのフォークやブルースの失われ、無視されてきた曲に目を向けている」と評価されています。また、「『ライ・クーダー・ファースト』ほどエキセントリックでも『紫の峡谷』ほど折衷的でもない」と述べ、彼の作品群の中でも重要な位置を占めるアルバムと位置づけています。

アルバムの収録曲は以下の通りです。

1. 流れ者の物語 - Boomer's Story
2. チェリー・ボール・ブルース - Cherry Ball Blues
3. ブラック・チキン - Crow Black Chicken
4. スウィート・ママ - Ax Sweet Mama
5. マリア・エレナ - Maria Elena
6. ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート - The Dark End of the Street
7. 旗のもとに集まろう - Rally 'Round the Flag
8. 翼と祈りに支えられ - Comin' in on a Wing and a Prayer
9. ケネディ大統領 - President Kennedy
10. ミスター・レイルロード・マン - Good Morning Mr. Railroad Man

これらの楽曲は、トラディショナルなブルースやフォークの要素を基盤としながらも、ライ・クーダーの卓越したギタープレイとアレンジによって、新たな命を吹き込まれています。特に、インストゥルメンタルの「ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」やスリーピー・ジョン・エスティスのボーカルがフィーチャーされた「ケネディ大統領」は、このアルバムのハイライトと言えるでしょう。

参加ミュージシャンには、ライ・クーダー本人の他に、スリーピー・ジョン・エスティス、ジム・ディッキンソン、ランディ・ニューマン、トミー・マクルーア、ジム・ケルトナー、ロジャー・ホーキンス、ミルト・ホランド、ジーン・フィニー、ジョージ・ボハノン、チャールズ・ロウイング、ダン・ペンといった豪華な面々が名を連ねています。彼らの演奏が、アルバムのサウンドに深みと多様性をもたらしています。

『流れ者の物語』は、ライ・クーダーの音楽的探求心と卓越した才能が結実した作品であり、アメリカ音楽のルーツに触れたいすべての人々にとって、必聴の一枚と言えるでしょう。

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