流敏晴

1948年7月7日、福岡県北九州市に生まれた流敏晴（ながれ としはる）氏は、プロ野球選手としてマウンドに立ち、球団職員としてチームを支え、晩年には大学野球の指導者として采配を振るうなど、生涯を日本の野球界に捧げた人物です。

小倉商業高校時代には、投手として非凡な才能を見せました。特に高校3年時の1966年春季九州大会県予選では、八幡高校を相手に7回コールドながらも完全試合という快挙を成し遂げ、大きな注目を集めました。夏の甲子園を目指しましたが、県予選準々決勝で惜敗し、聖地の土を踏むことは叶いませんでした。

同年の第1次ドラフト会議において、阪急ブレーブスから2位指名を受けプロの世界へ。アンダースロー投手として、当時の主力投手であった足立光宏氏や山田久志氏に続く存在として期待されました。マウンド上では飄々とした落ち着きを見せ、シュートやカーブを武器に打者と対峙しましたが、プロの壁は厚く、待望のプロ入り初勝利を挙げるまでには6年という歳月を要しました。しかし、その粘り強い投球スタイルでチームの一員として役割を果たし、1976年に現役生活を終えました。

引退後も野球界を離れることなく、阪急ブレーブスの球団職員としてセカンドキャリアをスタートさせました。まずはチーム付スコアラーとして、対戦相手の分析など裏方としてチームを支えました。球団がオリックスとなった後も引き続き在籍し、1993年からは編成部に異動。選手のトレード交渉や、将来チームを担うことになる選手のスカウト活動に奔走しました。長年の経験と培った眼力で多くの有望選手を発掘し、球団の強化に貢献したと言われています。2005年には編成部長に就任し、チーム編成の根幹に関わる重要なポジションを担いました。2008年に定年を迎えた後も、スカウトとして現場での活動を継続しましたが、2014年12月末をもって契約満了により球団を退団しました。

長年プロの世界に身を置いていましたが、野球への情熱は衰えることがありませんでした。球団退団後の2015年1月には学生野球指導資格を回復し、新たな目標に向かって歩み始めます。そして同年4月、新設された長崎国際大学硬式野球部の初代監督に招かれました。大学野球の指導者として、ゼロからチームを作り上げるという困難な、しかしやりがいのある仕事に情熱を注ぎました。2016年からは九州地区大学野球連盟の北部九州ブロック2部リーグに参戦し、チームを率いることになります。参戦初年度ながら春季リーグで2位となるなど、流氏の指導のもとチームは急速に力をつけていました。

しかし、同年秋季リーグの真っただ中である9月15日、流氏は胸部大動脈瘤破裂のため、志半ばにして急逝されました。享年68歳でした。突然の訃報はチームに大きな衝撃を与えましたが、長崎国際大学のナインは、指揮官を失った悲しみを乗り越え、流氏の遺影に毎試合黙祷を捧げながら試合に臨みました。困難な状況下で結束を強めたチームは、流氏が植え付けた野球を体現するかのように快進撃を続け、参戦1年目にして秋季リーグで見事に優勝を果たし、1部リーグへの昇格を勝ち取ったのです。これは、生前の流氏がチームに注いだ熱い思いと、それに応えようとした選手たちの不屈の精神が結実した、彼の野球人生を締めくくるにふさわしい劇的な出来事でした。

選手としてマウンドに立ち、裏方としてチームを支え、そして指導者として未来を担う選手たちを育てようとした流敏晴氏。その多岐にわたる貢献は、日本の野球史に確かに刻まれています。

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