浅賀ふさ

浅賀ふさ：日本の医療ソーシャルワークの礎を築いた女性

浅賀ふさ（1894年2月17日～1986年3月3日）は、日本の医療社会事業における先駆者として知られる人物です。愛知県半田市出身の彼女は、裕福な家庭で育ちながらも、型にはまらない生き方を貫き、日本の医療福祉の近代化に多大な貢献を果たしました。

揺るぎない信念とアメリカでの経験

幼少期から、結婚や家庭という女性像に疑問を抱いていた浅賀は、日本女子大学卒業後、兄の渡米に同行します。しかし、兄の仕事の失敗により帰国することになった彼女は、アメリカに残ることを決意。ボストンの支援を受けながら生活を続け、扁桃腺の手術をきっかけに、人々のために尽くす仕事に魅力を感じるようになりました。

この経験から社会事業への関心を深め、1924年にシモンズ大学社会事業大学院に入学。在学中は、マサチューセッツ総合病院の医師キャボットと出会い、医療社会事業への道を歩むことを決意します。さらに、ハーバード大学教育大学院で幼児教育を学ぶなど、幅広い知識と経験を積みました。

聖ルカ病院での医療社会事業導入

1929年、帰国した浅賀は、聖ルカ病院（現在の聖路加国際病院）の医療社会事業部に着任。当時、日本には存在しなかった医療社会事業を、欧米の理念に基づいて初めて導入しました。貧しい患者を対象としたチャリティクリニックを運営し、限られた医療資源の中で、人々の健康と福祉向上に尽力しました。

医療社会事業部は、浅賀の尽力により発展し、スタッフ10名規模の部署に成長。作業治療部を設立し、リハビリテーションやグループワークにも取り組みました。しかし、戦前の日本の医療機関では、聖ルカ病院以外への医療社会事業の普及は進んでいませんでした。1938年、浅賀は結婚を機に聖ルカ病院を退職し、医療社会事業家としての活動に一旦幕を閉じます。

女性参政権運動と社会活動

医療社会事業活動と並行して、浅賀は女性参政権獲得運動にも積極的に参加しました。市川房枝らと共に、婦人参政権獲得同盟（後の婦選獲得同盟）の活動に尽力し、1937年の母子保護法制定に貢献しました。

この母子保護運動の背景には、貧困による母子家庭の悲惨な状況がありました。浅賀の活動は、ケースワーカーが社会政策に発言するべきだという信念に基づいており、朝日訴訟では原告支援の活動に参加、証人として証言するなど、社会正義のために行動を続けました。

厚生省職員から大学教員へ

戦後、厚生省児童局嘱託職員としてGHQとの渉外や児童相談所の指導を行いながら、児童福祉に関する著作の刊行にも携わりました。1953年には、中部社会事業短期大学（現在の日本福祉大学）の教員となり、後進の育成にも力を注ぎました。

まとめ

浅賀ふさの生涯は、社会の弱者への深い共感と、社会を変えるための行動力、そして揺るぎない信念の物語です。彼女の功績は、日本の医療社会事業の発展に大きな足跡を残しただけでなく、女性の社会進出の道を切り開いたという点にもあります。彼女の生き方は、現代社会においても、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

参考文献

五味百合子『社会事業に生きた女性たち』
室田保夫『人物でよむ近代日本社会福祉のあゆみ』
愛知県社会科教育研究会尾張部会『尾張の女性』
HKW（制作・著作）『浅賀ふさと医療社会事業』

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