浜松事件 (抗争事件)

1948年（昭和23年）4月、第二次世界大戦終結から間もない混乱期にあった静岡県浜松市において、市街地を巻き込む大規模な抗争事件が発生しました。

この事件は「浜松事件」あるいは「浜松大紛争」とも呼ばれ、戦後社会の緊張関係を象徴する出来事の一つとして記録されています。

事件の背景には、戦後の厳しい生活状況の中で形成された非合法市場、いわゆる闇市を巡る利権争いがありました。浜松市内の国際マーケットは在日朝鮮人グループが掌握していましたが、一方の闇市は地元の的屋組織である服部治助率いる「服部組」が仕切っていました。在日朝鮮人グループは、当時の在日本朝鮮人連盟の影響力を背景に、地域の治安維持を担う浜松市警察の正規の取締りや介入を事実上拒否し、本来は許可されていない禁制品の販売などを公然と行っていました。

これに対し、服部組は主に合法的な物品を取り扱っていたため、非合法品を扱う国際マーケットや一部の闇市に客足を奪われる形となり、在日朝鮮人グループに対する強い反感を募らせていました。両勢力の緊張が高まる中、1948年3月には、浜松市警の巡査が賭博の現行犯で朝鮮人を取り押さえようとしたところ、逆に抵抗を受け負傷するという事件が発生します。

この際、服部組は負傷した巡査を救護して病院に収容し、さらに朝鮮人グループの襲撃に備えて病院周辺を警護するなど、実質的に警察側と連携する動きを見せました。この出来事により、両勢力の対立は一層先鋭化し、いつ衝突が起きてもおかしくない状態となっていたのです。

そして、1948年4月4日の夕方、朝鮮人グループが服部組組長宅を襲撃したことを契機に、事態は一気に武力衝突へと発展しました。服部組は直ちに報復の準備を進めるため会合を開きましたが、朝鮮人グループはその会合場所を突き止め、銃撃を仕掛けます。この激しい衝突を受け、浜松市警察も事態の鎮静化を図るべく出動しましたが、朝鮮人グループは主要な交差点である浜松市伝馬町交差点でこれを迎え撃ち、市街地で警察部隊との間で激しい銃撃戦を展開しました。

抗争は翌5日以降も数日間にわたり断続的に続き、その結果、数名の死者と約300名に上る負傷者を出すに至りました。事態を収拾できないと判断した浜松市警は、最終的に日本の占領にあたっていた駐留軍の岐阜軍政部に憲兵の出動を要請します。この要請を受けて400名の兵士が浜松に派遣されたことで、ようやく事態の沈静化に向かいました。

この事件の後、在日朝鮮人グループへの世間からの評価は大きく低下した一方で、服部組に対しては浜松市民の有志から当時の金額で50万円にも上る見舞金が寄せられるなど、一定の支持を得る形となりました。事件に関与したとされる人物たちは逮捕・起訴され、同年8月4日には静岡地方裁判所浜松支部で判決が言い渡され、17名に対し懲役6ヶ月から4年の有罪判決が下されています。この事件は、戦後の混乱期における社会不安や多層的な対立構造を示す事例として、歴史に刻まれています。

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