浜松空襲

浜松空襲（はままつくうしゅう）とは、第二次世界大戦の終盤、主に1944年末から終戦にかけて、連合国軍（アメリカ軍およびイギリス海軍）によって静岡県浜松市とその近郊に対して行われた一連の戦略爆撃や無差別攻撃、さらには艦艇からの砲撃の総称です。当時の浜松は、その都市規模に比して特に多数回の攻撃に見舞われた都市の一つでした。

攻撃が集中した背景には、いくつかの要因がありました。

軍事・産業の重要性: 浜松とその周辺には、浜松陸軍飛行場や浜松教導飛行師団といった重要な軍事施設が多数存在しました。また、日本楽器（現在のヤマハ）、中島飛行機（現在のSUBARUの源流）、鈴木織機（現在のスズキ）をはじめとする多くの軍需工場が集積しており、日本の戦争遂行能力にとって欠かせない拠点と見なされていました。
交通の要衝: 東海道沿いの重要な都市であり、鉄道省浜松工機部のような鉄道施設も存在したことから、物資や兵員の輸送ルートとしても狙われやすかったと考えられます。
爆撃ルート: 東京・名古屋方面へのB-29爆撃機の主要な往復ルート上に位置しており、特に、任務を終えて基地へ帰投する部隊が、残余の爆弾を浜松上空で投下するよう指示されていたことも、攻撃頻度を高めた一因とされています。

連合国軍の報告によれば、当時の浜松市の人口は約16万6千人に対し、延べ560機に及ぶ航空機により、合計3,076トンもの爆弾が投下されたと記録されています。これは同時期の横浜大空襲と比較しても、より多くの航空機と爆弾が投入されたことを示しており、浜松がいかに激しい攻撃に晒されたかがうかがえます。

空襲の主な経緯

浜松に対する本格的な攻撃は、1944年後半から始まり、終戦にかけて激しさを増しました。主な攻撃は以下の通りです。

1944年11月27日: 東京湾岸地域への空襲の後、浜松へも爆撃が行われました。
1945年2月15日: 三菱重工業名古屋発動機製作所への空襲のついでに、54機のB-29が浜松南部地域（海老塚地区など）を爆撃。浜松基地も攻撃目標となり、この攻撃で約150名の犠牲者が出ました。
1945年4月30日: 浜松市街地を主要な目標とする大規模空襲。69機のB-29が投入され、中心市街地、特に軍需工場が多く集積していた寺島・龍禅寺地区が標的となりました。この空襲による犠牲者は約1,000名に上りました。
1945年5月19日: 東部および西北部地域が空襲され、約450名が犠牲となりました。
1945年6月18日: 浜松市街地全体への大規模空襲（通称「浜松大空襲」）。この日だけで約1,800名が死亡し、市内は壊滅的な被害を受けました。
* 1945年7月29日: 空からの爆撃に加え、洋上からの攻撃も行われました。アメリカ海軍の戦艦サウスダコタ、マサチューセッツ、インディアナ、そしてイギリス海軍のキング・ジョージ5世といった有力艦艇を含む部隊による艦砲射撃が行われました。この砲撃では、国鉄浜松工機部や浜松駅、日本楽器、東洋紡績といった主要施設が狙われ、約170名の犠牲者が出ました。

空襲による被害と戦後

度重なる空襲と艦砲射撃によって、浜松市は甚大な被害を受けました。戦後、浜松復興記念館などが集計した資料によれば、浜松空襲による死傷者は4,649人に上り、建物は倒壊9,420棟、焼失20,274棟と記録されています。市内の総戸数の九割以上が何らかの被害を受け、罹災した市民は約12万人に達し、当時の人口の約64%が影響を受けた計算になります。

戦後、浜松市は復興への道を歩み始めました。市は、空襲による戦傷者への援護として、一部の市民に対して見舞金を支給しています（過去には年間25,000円などが支払われた記録があります）。

また、浜松駅前の通りに植えられていた46本のプラタナスのうち、空襲を生き延びたのはわずか3本でした。これらは復興のシンボルとして大切にされ、1964年（昭和39年）には市の木に指定されました。

近年に至っても、空襲に関する資料の取り扱いには課題が見られます。他地域の空襲資料として誤って使用されてきた写真が、実は浜松空襲時の市街地を捉えたものであると判明する事例がありました。特に、ある市史や教材に掲載された写真が浜松のものであると特定されたが、特定の建物（松菱百貨店など）が不自然に消去されているなど、加工の痕跡も見られることが指摘されており、誤掲載や加工の経緯は明らかになっていません。これは、歴史の記録と継承における正確性の重要性を示す出来事と言えます。

浜松空襲は、第二次世界大戦における日本本土空襲の一つであり、特に静岡県内では静岡空襲（罹災者約12万人）や清水空襲などと共に、多くの人命と財産を奪った悲惨な出来事として記憶されています。

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