海がきこえる (アニメ)

海がきこえる

『海がきこえる』は、日本テレビの開局40周年を記念して制作されたアニメ作品で、スタジオジブリが手がけた初のテレビ向け作品です。この作品は、氷室冴子の同名小説を原作とし、1993年5月5日に放送された90分のスペシャルアニメであり、後に日本テレビ系列の一部局でも放映されました。放送後には映画館でも上映が行われ、2016年にはアメリカで劇場公開される実績を持っています。

制作背景

『海がきこえる』は、アニメーションの制作過程において、若手スタッフを育成することを目的にしていました。鈴木敏夫プロデューサーが宮崎駿に対して、若手監督に作品を任せる提案をしたのがきっかけです。これにより、ジブリでは宮崎作品や高畑作品に関与しない新しい創造性が生まれました。特に、監督には望月智充が抜擢され、日常の細やかな表現が話題を呼びました。

制作上の特徴は、放送当時の地上波テレビが4:3のアスペクト比であったにもかかわらず、16:9のビスタサイズで制作された点です。鈴木はこの作品を「スタジオジブリ史上、最も予算の回収に苦労した作品」と回顧しています。

物語のあらすじ

物語は、高知から東京の大学に進学した杜崎拓の視点で展開します。彼は吉祥寺駅のホームでかつての恋人・武藤里伽子に似た女性を見かけ、その瞬間、過去の思い出に浸ります。夏休みに里伽子との思い出を辿り、二人の初めての出会い、修学旅行、文化祭などの出来事が描かれます。拓の心の中で、青春の不安定さや甘酸っぱさが浮き彫りになります。

キャラクターと声の出演

主要キャラクターは、主人公の杜崎拓を飛田展男が演じ、ヒロインの武藤里伽子役には坂本洋子が選ばれました。この作品の特徴は、多くのキャストがベテラン声優で占められ、男性専業声優が主人公を演じるのは非常に珍しいことです。そのキャストにより、物語はさらに深みを増しています。

制作時の試み

制作段階では、高知でのロケハンが行われ、そこでスタッフ間での意見交換や議論が活発に行われました。特に美術監督の田中直哉とキャラクターデザインの近藤勝也の協力により、独自の作品スタイルが誕生しました。ストーリー展開は原作と異なる部分が多く、短い放送時間を利用して高校生編を中心に構成されています。

評価と影響

放送初日の視聴率は、祝日でも17.4%を記録し、大きな成功を収めました。また、制作当初から若者の恋愛模様を描いた作品として、『耳をすませば』に影響を与えたとも言われています。その影響から、以降のジブリ作品での恋愛表現にも微細な変化が見られるようになりました。

作品の重要性

『海がきこえる』は、スタジオジブリの歴史の中で特異な位置を占める作品です。現代の若者の心を敏感に捉えた描写や、青春の苦味と甘さを繊細に表現しています。それゆえ、作品の持つ独自性が視聴者によって広く認識され、今なお語り継がれる存在となっています。

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