海洋警察庁

大韓民国海洋警察庁

大韓民国海洋警察庁（Republic of Korea Coast Guard、かつての英語名称は National Maritime Police Agency KOREA）は、大韓民国の沿岸警備隊です。現在は海洋水産部に所属しており、その外庁として機能しています。朝鮮語での名称は設立以来変更されていません。

2014年、痛ましいセウォル号沈没事故が発生し、その際の初動対応や救助活動における不手際が厳しく批判されました。これにより、同年11月19日には組織が解体され、業務は新たに設立された国民安全処へと引き継がれることとなりました。しかし、2017年に文在寅政権が発足すると、国民安全処は廃止・再編され、海洋警察庁は再び海洋水産部の傘下機関として復活を果たしました。

概要

海洋警察庁は、海上における法執行、安全確保、環境保全などを主な任務としています。具体的には、海上犯罪の取締り、密輸や密入国の監視および摘発、海難事故発生時の捜索・救助活動、領海の警備、海洋環境の保全、そして海上交通の安全確保などが含まれます。組織の幹部は陸上の警察庁出身者が多くを占めており、階級の名称も警察官と同じであるなど、陸上警察とのつながりが強い特徴があります。2017年時点では、総勢10,016名の職員に加え、大小合わせて328隻の艦艇と24機の航空機を保有しています。また、海洋警察庁は設立当初から竹島周辺海域の領海警備を担当しています。

近年、韓国の海洋権益は拡大傾向にあり、これを保護することに重点が置かれています。そのため、大型警備艦やサルベージ艦の整備に力を入れています。

沿革

朝鮮戦争休戦後の1953年12月23日、内務部治安局の内部組織である「海洋警察隊」として釜山にて産声を上げました。設立当初の定員はわずか139人、保有していた警備艇は181トン級が6隻という小規模なものでした。この発足日である12月23日は、1998年に「海洋警察の日」として定められています。当初の主な目的は、李承晩ラインを越えて操業する日本漁船の拿捕でした。その後、木浦や済州島を含む沿岸各地に組織が拡大され、1979年には仁川に本部庁舎が設置されました。

所属官庁は内務部から商工部海務庁を経て再び内務部へと変遷しました。1991年に内務部の治安本部が外庁である警察庁として再編されるのに伴い、海洋警察隊も「海洋警察庁」と名称を改め、警察庁の所属機関となりました。また、各地の地区海洋警察隊も海洋警察署に名称が変更されました。

1993年に発生した西海フェリー沈没事故を受け、海上安全を担当する専門組織の不在が被害拡大の一因であるとの指摘が高まりました。これを受け、事故から3年後の1996年には海洋水産部の外庁として独立した機関となりました。2005年12月には、本庁舎を仁川の松島新都市に移転しています。

地方組織については、2006年4月に地方海洋警察本部が設置されましたが、同年12月には地方海洋警察庁へと改編され、仁川海洋警察署は本庁の直轄となりました。2012年6月には、済州島周辺海域の治安強化のため、済州地方海洋警察庁が新設されました。

2008年2月、李明博政権発足に伴う政府組織改編により、廃止された海洋水産部から新たに設置された国土海洋部へと所属が移りました。この頃、2011年には仁川海洋警察署所属の警官が、違法操業中の中国漁船船長に刺殺される事件も発生しています。2013年3月に朴槿恵政権が発足し、海洋水産部が復活すると、再びその外庁となりました。

解体と復活の経緯

2014年4月16日に発生したセウォル号沈没事故は、海洋警察庁の命運を大きく左右しました。事故発生時の初動対応の遅れや救助活動の不手際が明るみに出たことに加え、その後の捜査過程で多数の不祥事が発覚したことで、国民からの強い批判に晒されました。同年5月19日、当時の朴槿恵大統領は国民に向けた談話の中で、海洋警察庁の救助活動は失敗であったことを認め、組織を解体する方針を発表しました。この方針に基づき、海洋警察庁の捜査機能は警察庁へ、そして救助・警備機能は新たに設立される国家安全庁へそれぞれ移管されることとなりました。

この決定を受けて、同年11月19日には災害対応組織として国民安全処が正式に発足し、海洋警察庁は組織としての姿を消しました。従来の組織は、西海・南海・東海・中部・済州の五方面に置かれた地方海洋警備安全本部に再編される形となりました。

しかし、2017年に文在寅政権が発足し、政府組織法が改正されたことで状況は再び変わります。国民安全処は廃止・再編され、これに伴い海洋水産部の傘下機関として海洋警察庁が再び設置され、その組織が復活しました。

組織

海洋警察庁は、庁長をトップとする組織体制を取っています。幹部には、庁長（治安総監）、次長（治安正監）、企画調整官などが置かれています。下部組織としては、警備局、救助安全局、捜査情報局、海洋汚染防災局、装備技術局といった主要な局があり、それぞれ領海警備、海難救助、海上犯罪捜査、海洋汚染対策、装備管理などを担当しています。また、所属機関として、海洋警察教育院（全羅南道麗水市）、海洋警察研究センター（忠清南道天安市）、中央海洋特殊救助団（釜山広域市）、地方海洋警察庁（中部、西海、南海、東海、済州）、及びその管轄下の海洋警察署、海洋警察整備廠（釜山広域市）などが全国に設置されています。

装備

海上保安庁の巡視船や巡視艇に相当する、警備救難艦、警備艦、警備艇などを運用しています。代表的な大型艦艇としては、5,000トン型の「参峰（Sambongho）」や「李清好」、3,000トン型の太平洋級、2,000トン型の済民級などがあります。これらの艦艇に加え、各種の航空機も保有しており、広大な海域での警備や捜索救助活動にあたっています。

特徴

階級

海洋警察官の階級は11段階に分かれており、その名称は警察庁の警察官と同じです。最高位は治安総監（庁長）であり、以下、治安正監、治安監、警務官、総警、警正、警監、警衛、警査、警長、巡警と続きます。

海洋警察特攻隊（SSAT）

2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受けて、2002年のFIFAワールドカップ開催直前の2002年1月に創設された特殊部隊です。正式名称はSea Special Attack Team。仁川海洋警察署と一部の地方海洋警察庁に直轄隊として設置されており、海上でのテロ事件など、高度な専門性が求められる事案に対応します。隊員の多くは軍の特殊部隊出身者であり、厳しい訓練を積んでいます。沿岸部の原子力発電所や石油貯蔵施設などの重要施設警備、海難事故における人命救助訓練なども任務としています。

養成

海洋警察官の養成は、全羅南道麗水市にある海洋警察教育院で行われています。2004年5月6日に設立されたこの教育院では、艦艇運用、警備救難、捜査情報、安全環境などの専門分野に特化した訓練を実施しており、新規採用者は警察総合学校での基礎訓練後にここで専門的な研修を受けます。

庁長

海洋警察庁のトップである庁長には、これまで多くの陸上警察出身者が就任しています。これは、海洋に関する専門知識や経験を持つ人材が庁内で十分な存在感を発揮できていない状況を示唆しており、セウォル号事故における救助対応の失敗要因の一つとして指摘されることもあります。

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