海狸香

海狸香（カストリウム）とは

海狸香（かいりこう）またはカストリウムは、ビーバーの持つ香嚢から得られる香料です。ビーバーはオス、メスともに肛門近くに一対の香嚢を持っており、その内部には黄褐色の強い臭気を放つクリーム状の分泌物が含まれています。この分泌物を燻製や天日干しで乾燥させ粉末状にしたものが海狸香として利用されます。

利用方法としては、アルコールに溶解させてチンクチャーとしたり、有機溶剤で抽出してレジノイド、さらにアルコールで抽出してアブソリュートとして使用されます。ビーバーにはヨーロッパビーバーとアメリカビーバーが存在し、どちらの種類からも海狸香を得ることができます。

歴史

海狸香の使用の歴史は、麝香、霊猫香、龍涎香といった他の動物性香料と比較すると比較的浅いです。19世紀までは、ビーバーを毛皮目的で捕獲する際に、捕獲罠に塗る誘引剤として用いられていました。その後、香水用素材としての有用性が認められ、商業取引が開始されました。

主にレザーノートと呼ばれる皮革様の香りを香水に付与するために使用されていましたが、ビーバーの乱獲により生息数が激減したため、一時的にワシントン条約によって取引が禁止されました。そのため、合成香料による代替が進み、現在では高価であることも相まって使用量は減少傾向にあります。

成分

ヨーロッパビーバー由来の海狸香とアメリカビーバー由来の海狸香では、香りの質に若干の違いがあるとされています。一般的に、ヨーロッパビーバー由来のものは皮革様の香りが強く、品質が高いと評価されています。一方、アメリカビーバー由来のものは樹脂様の香りが特徴です。

この香りの違いは、ビーバーの食性の違いに起因するという説があります。かつて毛皮目的で捕獲されたビーバーは主にアメリカビーバーであったため、市場での流通量はアメリカビーバー由来のものが多くを占めていました。

海狸香の主要な成分としては、クレオソールやグアイアコールなどのフェノール系化合物が挙げられます。また、カストラミンをはじめとするキノリジジン骨格を持つアルカロイド類、トリメチルピラジンやテトラヒドロキノキサリンなどのヘテロ芳香族化合物も含まれています。

用途

海狸香は、香料や食品添加剤として利用されてきました。また、中世の養蜂においては、海狸香を使用することで蜂蜜の収穫量が増加すると信じられていました。海狸香に含まれる抗菌物質が、蜂を病気や害虫から保護する効果があったと考えられています。

医療分野でも利用され、古代ローマ時代には中絶やてんかんの緩和に用いられました。中世においては、頭痛、ヒステリー、性不能症の改善に効果があるとされていました。

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