海部おろし

海部おろしについて

海部おろし（かいふおろし）とは、1991年に自由民主党内で起きた倒閣運動のことを指します。この運動は、海部俊樹首相を退陣に追い込むものであり、当時の政治状況を反映した重要な出来事でした。本稿では、その経緯や背景について詳しく解説します。

経緯

1989年に発生したリクルート事件や宇野宗佑首相の女性スキャンダルが影響し、自民党は同年の参院選で大敗を喫します。リクルート事件に関与した有力候補が謹慎を余儀なくされる中、海部は消去法的に首相に就任しましたが、彼は弱小派閥の出身であったため、党内基盤が脆弱でした。つまり、海部政権は竹下派からの支援に依存していたのです。

海部政権は1990年の衆院選で自民党の安定多数を確保し、退潮を食い止めることに成功しましたが、各派の領袖は再び権力獲得を狙うようになりました。1991年に入ると、同年10月の総裁選を巡る政争が始まりました。この中で海部自らも政治改革の導入に意欲を示し、党内の権力闘争はさらに激化したのです。

海部首相が手がけようとしていた政治改革法案は、衆議院への小選挙区制の導入を含むものでした。しかし、この法案を通すには、当時ねじれ国会のため野党の協力が不可欠でした。さらに、一部の与党議員も自らの将来に関わる選挙制度改革に消極的で、法案の成立は難航しました。

海部首相は世論の支持を得るために、他派からの支持を取り付ける必要がありましたが、ついに政局が絡み合い、緊迫した状況に陥ります。1991年9月25日、自民党内の影響力を持つ竹下派の金丸信が、党総裁選への海部の続投を示唆する中、海部は政治改革法案の審議が進まないことを受け、衆議院の解散を検討するようになります。

倒閣の動き

しかし、海部首相の「重大な決意で臨む」との発言は、党内で異議を唱えられます。特に、以前から政治改革に反対していた宮澤派や三塚派、渡辺派は激しく反発しました。与野党の国対委員長会談も進まず、海部は孤立していく中で、ついに衆議院の解散を決意しますが、肝心な支持が得られず、最終的に解散を断念せざるを得ませんでした。結果、海部は自由民主党総裁の任期満了に伴い内閣を総辞職という形で退陣しました。

支持率と政治的な影響

海部内閣の支持率は、湾岸戦争などの影響で一時下落しつつも、支持を取り戻す時期もありました。しかし、その後に続く「海部おろし」における辞任は、党内の力関係が反映される厳しい結果となりました。冨森叡児は当時の状況を「これほど無力で無惨な総理は日本の憲政史上見たことがない」と表現しています。

最後に、海部は後に自身の発言が意図的に誤解され、「重大な決意」とされることで、倒閣運動に繋がったと語っており、政治の世界における権力闘争の厳しさを改めて浮き彫りにしています。海部おろしは、政策に関する支持がどれほど内外の政治環境に影響を与えるかを示す一例であり、その影響は政治史においても重要な教訓となっています。

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