海野和三郎

海野和三郎：理論天文学の巨星、教育者としての情熱

海野和三郎（1925年10月2日 - 2023年11月7日）は、日本の天文学界において、理論天体物理学の分野で卓越した業績を残した人物です。東京大学名誉教授の称号を持ち、数多くの研究者を育成したことで知られています。

学問への道

埼玉県浦和市（現さいたま市）に生まれた海野は、旧制松本高等学校時代に物理学者の道を志しました。しかし、戦時中の状況から東京帝国大学の天文学科へ進学。そこで萩原雄祐との出会いが、彼の理論天文学者としてのキャリアを決定づけました。萩原の指導のもと、量子力学の視点を天文学に取り入れるという、当時としては斬新な研究に没頭。その難解さから評価が分かれることもありましたが、新たな視点をもたらしました。

1955年には、東京大学から理学博士号を取得。「惑星状星雲内に於ける電離ヘリウムのライマンアルフア輻射の理論的輪廓とボーエン線の励起」と題した論文は、彼の理論的な深さと解析能力を示すものでした。

天文学界への貢献

海野の貢献は、研究に留まりません。戦後の天文学界において、英文教科書や欧文研究報告（PASJ）の作成・公刊に尽力し、国際的な情報発信を支えました。また、加藤正二、尾崎洋二、祖父江義明といった、後の電波天文学を牽引する研究者たちに、分子の放射機構などの分野で多大な影響を与えました。

海野スクール

海野が育成した理論天文学者は、「海野学校」や「海野スクール」と呼ばれ、海外からも高く評価されています。彼らは日本の理論天文学に大きな足跡を残し、その発展に大きく貢献しました。海野自身も、磁場中の吸収線形成に関するUnno方程式の発見や、恒星大気の振動理論など、数々の学術的業績を上げています。

教育者としての顔

海野は教育者としても卓越していました。国立天文台の理論研究部の基礎を築き、多くの弟子を育てました。萩原から受け継いだ量子力学を天文学に導入するという先駆的な試みは、尾崎洋二、加藤正二、祖父江義明といった著名な研究者の輩出につながりました。

「教育者は人を育て、人を励まし、人に勇気を与えること」という言葉は、彼の教育に対する情熱を表しています。

その後

東京大学を定年退官後は、近畿大学教授、先事館先事研究所長、NPO法人東京自由大学学長などを歴任し、教育・研究活動を続けました。

2023年11月7日、肺炎のため東京都足立区の病院で生涯を閉じました。享年98歳。

著書

『天文・地文・人文』（東京書籍、東京選書、1980年）
『宇宙マンダラ-天文学者の人類未来への提言』（ビイングネットプレス、2014年）
『星と銀河の世界』（共著、岩波書店、星の世界をたずねる、1984年）
『されど天界は変わらず・上諏訪日誌』（東京大学理学部天文学教室編、1993年）
『わたしの韓国語自修法』（東京書籍）
『Nonradial Oscillations of Stars』（京大出版）

栄典

2006年4月 瑞宝中綬章受章

海野和三郎は、その学術的な功績と教育への情熱によって、日本の天文学界に多大な影響を与えた、まさに巨星と呼ぶにふさわしい人物でした。

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