消えた恋

消えた恋：ビートルズの隠れた名曲の軌跡

ビートルズの楽曲「消えた恋」(What Goes On)は、1965年発表のアルバム『ラバー・ソウル』に収録された、隠れた名曲として知られています。しかし、その誕生からリリースまでには、様々な経緯がありました。本稿では、この楽曲の制作過程、レコーディング、リリース、そして評価について、詳細に解説します。

誕生から完成まで：複雑な作曲過程

「消えた恋」の作曲は、ジョン・レノンが1959年初頭に開始したとされています。初期バージョンはバディ・ホリーの影響を強く受けたもので、のちの『ラバー・ソウル』版とは大きく異なるものでした。

1963年3月には一度レコーディングを試みましたが、完成には至らず、最終的なレコーディングは1965年11月まで待たなければなりませんでした。レノンは、この曲の復活について、「ポールの協力を得てミドルエイトを作り直し、リンゴに歌ってもらおうと思って復活させた」と語っています。しかし、楽曲の構成上、正式なミドルエイトは存在せず、一つのコーラスとヴァースが繋がった構造となっています。音楽評論家の中には、この長いパートはポール・マッカートニーが書いたのではないかと推測する者もいます。

興味深いことに、この曲はリンゴ・スターがビートルズの楽曲で初めて作曲と作詞に参加した作品です。スター自身は自身の貢献について「5個くらいの言葉を考えただけ」と語っていますが、音楽学者ウォルター・エヴェレットやイアン・マクドナルドは、「Waiting for the tides of time」というフレーズをスターが書いたと主張しており、マクドナルドはそれをボブ・ディラン風の歌詞だと評しています。

レコーディング：複数年にわたる道のり

1963年3月5日、「フロム・ミー・トゥ・ユー」や「サンキュー・ガール」のレコーディングセッション中に、「消えた恋」と「ワン・アフター・909」の録音も検討されました。しかし、当日は録音時間が限られており、「ワン・アフター・909」が優先され、「消えた恋」は録音されませんでした。同年、レノンとマッカートニーはデモ音源を録音しましたが、1965年までお蔵入りしたままでした。

1965年11月、ポール・マッカートニーは自宅でマルチトラック・デモを制作。これはリンゴ・スターに楽曲を聴かせるためだったとされています。このデモには、ポールのボーカル、リードギター、ベース、ドラムが収録されており、リンゴはこのデモを元に自身のアイデアを加えてレコーディングに臨みました。

完成版のレコーディングは、1965年11月4日深夜に行われました。ワンテイクで録音した後、オーバードビングが行われ、ジョージ・マーティンがプロデュースを担当しました。レノンのギターはスティーブ・クロッパーの奏法を意識したものだとされ、コーラス前には「Tell me why」と歌ったスターに対してレノンが「We already told you why!」と返す掛け合いは、ビートルズの以前の楽曲「テル・ミー・ホワイ」へのオマージュです。また、モノラルミックスでは、ハリスンのギターが意図せずミュートされている部分があります。

リリースと評価：B面曲としての成功と賛否両論

「消えた恋」は、1965年12月3日にイギリスで発売された『ラバー・ソウル』に収録されました。アメリカでは、1966年2月21日にシングル「ひとりぼっちのあいつ」のB面としてリリースされ、Billboard Hot 100で最高81位を記録する成功を収めました。その後、アメリカ盤『ラバー・ソウル』からはカットされ、『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に収録されました。

評価については賛否両論があります。一部の評論家からは「アルバムの中で最も弱く、不調和な曲」と酷評された一方、「軽快なカントリー＆ウェスタン風味の作品」と高く評価する声もあります。ハリスンのギタープレイはカール・パーキンスの影響が感じられると指摘され、マッカートニーのベースラインは「ソウルフル」と評されています。

カバーバージョン：多様なアレンジ

「消えた恋」は、数多くのアーティストによってカバーされています。ザ・チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズによるブルーグラスアレンジ、ザ・セルダム・シーンによるバージョン、そしてスフィアン・スティーヴンスによるアレンジなどは、その個性的な解釈で注目を集めています。

まとめ

「消えた恋」は、複雑な制作過程を経て生まれた、ビートルズの魅力が凝縮された楽曲です。その評価は分かれるものの、楽曲そのものや、その周辺にまつわるエピソードは、ビートルズの歴史において重要な位置を占めています。様々なアーティストによるカバーからも、この楽曲が持つ普遍的な魅力が伺えます。

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