消磁

消磁：不要な磁気を除去する技術

消磁とは、物質に帯びた不要な磁気を減少または除去する処理のことです。この技術は、磁気現象の初期研究者であるカール・フリードリヒ・ガウスの名にちなんで『Degaussing』と呼ばれています。磁性体の性質としてヒステリシスが存在するため、磁気を完全にゼロにすることは不可能です。そのため、消磁処理では、通常、微弱な既知の磁気を残すことになります。

船舶における消磁の歴史

消磁という用語が最初に用いられたのは、第二次世界大戦中、カナダ海軍がドイツの磁気機雷に対抗する手段として開発した技術においてです。当時、船体は航行中に地磁気の影響を受けて磁気を帯び、その磁場を検知して作動する磁気機雷が大きな脅威となっていました。

この問題に対処するため、科学者たちは船体に小さな磁場を発生させるシステムを導入し、船全体の磁場の影響を相殺することで磁気機雷を回避する技術を開発しました。この技術を『消磁（Degaussing）』と名付け、後に世界標準の用語となりました。

初期の消磁方法は、船体内部に電磁コイルを設置する『コイリング』と呼ばれる方法でした。この方法は船体周辺の磁場を継続的に調整することができ、南半球で機雷が検出する磁場の向きを考慮した調整も可能でした。しかし、この方法は費用と設置作業の面で課題がありました。

そこで考案されたのが、『ワイピング』と呼ばれる新たな消磁方法です。これは、船体に強力な電流を流すことで、磁場を発生させて消磁する技術で、現在でも船体消磁（deperming）として使用されています。

消磁の効果は時間とともに薄れていくことが判明しました。これは、船が航行する過程で地磁気の影響を再び受けるためです。そのため、船は定期的な消磁が必要となります。

戦後、磁気信管の性能向上により、磁場の強度だけでなく、磁場の変化も検知されるようになりました。そのため、より精巧な消磁システムが開発され、船体の磁場を多軸方向で除去できるようになりました。

ブラウン管テレビ・モニタへの応用

現在、消磁技術はブラウン管テレビやモニタで広く用いられています。ブラウン管は、電子ビームによって画像を表示しますが、外部磁場の影響を受けやすく、画面の変色を引き起こす可能性があります。

これを防ぐために、ブラウン管には消磁コイルが内蔵されており、電源投入時に自動的に消磁処理が行われます。この際に発生する「ブーン」という音や画像の揺れは、消磁コイルが高速で発振し、徐々に振幅を小さくする磁場を発生させているためです。消磁機能は、操作メニューからも手動で実行可能です。

民生用機器では、サージ電流を制御するサーミスタが使用され、消磁処理は電源投入時の一回限りとなります。繰り返し消磁を行うと、効果が薄れ故障の原因となる可能性があるため推奨されません。

磁気記録媒体の消磁

ハードディスク、フロッピーディスク、磁気テープなどの磁気記録媒体は、磁区と呼ばれる小さな領域の磁化方向を変化させることでデータを記録しています。消磁は、これらの磁区の磁化方向をランダム化することでデータ消去を行います。

消磁には、交流磁場を用いる方法と直流磁場を用いる方法があります。交流磁場は徐々に磁場を弱めるのに対し、直流磁場は磁区を飽和させて消磁します。磁気メディアを消磁するための装置を消磁器といいます。

不可逆的な損傷

多くの磁気メディアは消磁後も再利用できますが、ハードディスクなど一部のメディアは、消磁によってサーボ制御データと呼ばれる重要なデータが消去され、二度と使用できなくなる場合があります。これは、磁気ヘッドの位置決めを制御するデータが消去されるためです。

消磁技術は、様々な分野で活用されていますが、対象となる媒体や装置の特性を理解した上で適切な方法を選択する必要があります。

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