涼崎探偵事務所ファイル

涼崎探偵事務所ファイル：クトゥルー神話を背景にした、現代社会の闇を描くホラーミステリーシリーズ

『涼崎探偵事務所ファイル』は、アボガドパワーズから発売された大人向けゲームシリーズです。クトゥルー神話という神秘的な世界観をベースに、現代社会に潜む孤独や心の闇をスリリングに描いた、パースペクティブ・モダンホラーとして高い評価を得ています。シナリオは全て大槻涼樹氏によって手がけられました。

黒の断章 THE LITERARY FRAGMENT：シリーズの幕開け、そして商業的な成功と苦悩

1995年7月14日、PC-9800シリーズ向けソフトとしてシリーズ第一作『黒の断章』が発売されました。その後、1997年にはセガサターンへ、2004年にはWindowsへと移植され、2000年にはアダルトアニメ化もされました。セガサターン版は商業的に成功を収めましたが、その制作には並々ならぬ費用と労力が費やされたため、利益は期待を下回ったと伝えられています。アメリカを舞台にした物語後半では、アメリカの録音スタジオでネイティブスピーカーによる吹き替え収録が行われたほどです。

クトゥルー神話研究の第一人者である森瀬繚氏によると、『黒の断章』は本格派クトゥルー神話ゲームとして大きな成功を収めたものの、当時のクトゥルー神話は、まだニッチな存在だったと言われています。批評家の村上裕一氏は、アダルトゲームという媒体が日活ロマンポルノのように自由な表現を可能にした好例として、本シリーズを高く評価しており、『ドグラ・マグラ』や『黒死館殺人事件』といった作品からの影響も指摘しています。

あらすじ

主人公の涼崎聡は、アメリカで起きた事件で恋人を含む3人を殺害した容疑で逮捕されますが、事件の記憶を失っています。精神科医である草薙の助けを得て、被害者遺族の一人である柏木明日香と共に探偵事務所を設立します。

6年後、涼崎のマンションで連続猟奇殺人事件が発生。現場に残されたメッセージには、「ナコト写本」という、クトゥルー神話に登場する魔導書「ネクロノミコン」の一部であり最大の秘儀とされる「黒の断章」が関係していることが示唆されます。6年前の事件との関連性から、涼崎たちはアメリカへと向かいます。

アメリカでは、「黒の断章」を狙う様々な勢力が暗躍していました。軍事目的、さらにはアドルフ・ヒトラーの復活をもくろむネオナチまでが絡んできます。涼崎は、事件の黒幕である杜松利明と対決。その結果、6年前の事件で杜松に拉致されていた明日香の両親を救出しますが、同時に自身の恋人を救えなかった過去も明らかになります。

杜松の正体は、「黒の断章」によって精神を永らえさせた研究者ハーバート・ウエストであることが判明します。ウエストは、柏木夫妻、そして冬川という日本人学者の肉体を乗っ取り、彼の妻・亜希子と娘・希を融合させ、父と母と娘の三位一体を達成しようと企んでいました。しかし、涼崎が明日香に持たせていたアクアマリンによって、ウエストは最終的に撃退されます。

Esの方程式 Wo Es war,soll Ich werden.：新たな事件、そして過去の影

1996年5月24日、PC-9800シリーズ向けソフトとして第二作『Esの方程式』が発売されました。この作品では、『黒の断章』から1ヶ月後、草薙の知人である山崎聡美と沢村人志が同時に自殺するという事件が発生します。涼崎探偵事務所は再び調査に乗り出し、草薙は自身の過去と対峙することになります。

事件の裏には、周囲の人間から神として崇められていた鵺野兼人という青年がいました。彼は、思い込みによって他者の精神を操る力を持っており、「Es」の解放という名目で、関係者を自殺に追い込んでいました。さらに、彼は村の言い伝えにある邪神の復活を企てますが、涼崎たちの妨害によって失敗し、どこかへと姿を消します。

人工失楽園 Paradise Lost：シリーズ第三作、そして未完の物語

シリーズ第三作『人工失楽園』は、タイトルが発表されたものの、開発凍結となってしまいました。この作品は、シリーズ全体の謎を解き明かす重要な鍵を握っていた可能性があります。

『涼崎探偵事務所ファイル』は、独特の世界観と練り込まれたストーリー、魅力的なキャラクターたちが織りなす、忘れがたいホラーミステリーシリーズです。未完成の作品も含め、その全貌は未だ謎に包まれています。

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