深尾成質

深尾成質は、江戸時代末期から明治にかけての激動期に土佐藩で活躍した上士であり、勤王派の一員でした。天保12年（1841年）に生まれ、その生涯は没年不詳ながら、藩政改革から戊辰戦争、そして明治初期の地方経済まで多岐にわたる足跡を残しています。藩政時代には「深尾丹波」として知られ、明治維新後に「深尾丹吉郎」と改名しました。

生い立ちと家督相続

深尾成質は、土佐藩の上士である深尾北家の当主、深尾成烈（内匠）の長男として、高知城下の郭内にある屋敷で誕生しました。本姓は菅原氏に遡ります。弟には後に土佐藩の執政を務めた山内隼人（深尾茂延）がいます。安政2年（1855年）、成質が15歳（満14歳）の時、父・成烈が死去したため家督を相続。以降、藩の要職である近習家老や奉行職などを歴任し、若くして藩政の一端を担うこととなりました。

勤王活動と藩政における立場

文久2年（1862年）4月8日に藩論を主導していた吉田東洋が暗殺されるという衝撃的な事件が発生すると、土佐藩内では尊攘派の動きが活発化します。成質は、この混乱期において、武市瑞山を郷士から上士に昇格させるために積極的に働きかけました。彼は土佐藩内の上士勤王派に属していましたが、乾退助の上司という立場にありながらも、その温厚な性格から過激な言動を慎む姿勢を貫きました。この慎重な姿勢は、後に乾退助が藩政改革や土佐勤王党弾圧の波を受けて失脚と復職を繰り返したのとは対照的に、成質が藩内での地位を比較的安定して保つ要因の一つとなったと言えるでしょう。

土佐勤王党弾圧期の動向

しかし、土佐勤王党への弾圧が強まる中で、成質も危機に直面します。文久3年（1863年）、藩主・山内豊範の実父である前々代藩主・山内豊資に対し、土佐勤王党の幹部らが朝廷からの令旨を盾に藩政改革を働きかけたことが、京にいた山内容堂の激怒を招きました。容堂は帰国後、吉田東洋暗殺の下手人捜索を厳命し、勤王党に同情的な藩の要人たちを次々と解任・辞職に追い込みます。そして、平井収二郎、間崎哲馬、弘瀬健太といった勤王党幹部が入牢、切腹という最期を遂げました。こうした尊攘派への逆風が吹き荒れる中、武市瑞山を含む幹部への逮捕命令が出されます。武市瑞山は上士であったため拷問は受けませんでしたが、彼の藩内での地位向上に便宜を図ったとされる深尾成質にも罪が及ぶ可能性が高まりました。この時、乾退助が自ら罪を被る形で大監察の職を辞し、さらに元治2年（1865年）には、郷士の上士昇格に関する「不注意な行為」を理由に謹慎を命じられることで、成質は難を逃れたとされています。この時期、成質が大坂の土佐稲荷神社に奉納した石灯籠が現在も残されており、当時の彼の動向を知る手がかりとなっています。

戊辰戦争と迅衝隊 総督

幕末の最終局面である戊辰戦争においては、深尾成質は重要な役割を担いました。慶応3年（1867年）5月、中岡慎太郎の仲介で薩摩藩との間で薩土討幕の密約が結ばれ、翌慶応4年（1868年）1月3日には鳥羽・伏見の戦いが勃発します。藩主・山内容堂は、この戦いを薩長と会桑（会津・桑名）の私闘と見て土佐藩兵の関与を禁じますが、伏見にいた土佐藩士の一部は密約に基づき独断で参戦します。国元にいた乾退助は、谷干城からの急報を受けて直ちに失脚を解かれ、藩の大隊司令に復帰。そして、慶応4年1月には討幕の主力となるべき藩兵部隊、迅衝隊が編成され、その初代総督に当時28歳（満27歳）であった深尾成質が任命されました。

成質は1月13日、大隊司令である乾退助とともに600余名の兵を率いて京へ向けて土佐を出陣します。この途上、新政府から高松藩征討の勅命を受け、迅衝隊は官軍として錦旗を拝受して進軍。幕府領であった川之江や高松藩に対し、交渉により無血での開城・降伏を成功させました。この後、成質は四国に残留し、迅衝隊の指揮を乾退助に一任します。乾退助は迅衝隊を率いて上洛し、藩主・山内容堂や京の藩幹部を説得して土佐藩を勤王一色に統一させ、迅衝隊を再編成しました。この際に乾退助が第2代総督兼大隊司令に就任し、東征（江戸へ向かう進軍）の途についたため、初代総督であった成質は、迅衝隊を率いて実戦に参加することなく、降伏した城の警護などに携わるに留まりました。

明治維新後の活動

明治維新後、成質は新体制下でもその能力を発揮します。高知藩の軍務局大幹事という要職に就任しました。明治2年（1869年）10月には、藩政時代の通称であった「丹波」が官職名（受領名）にあたることを避けるため、「丹吉郎」へと改名しています。さらに、明治11年（1878年）10月には、高知市に設立された第八十国立銀行の取締役に就任するなど、明治期の地方経済の発展にも関与しました。没年は明らかではありませんが、幕末の動乱期から明治初期にかけて、土佐藩の重要な局面で常に一定の役割を果たし続けた人物として、その名は歴史に刻まれています。

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