深海 (アルバム)

Mr.Childrenのコンセプトアルバム『深海』：制作秘話から商業的成功まで

1996年6月24日、Mr.Childrenの5枚目のオリジナルアルバム『深海』がリリースされました。前作『Atomic Heart』から約1年10ヶ月ぶりとなる本作は、彼らのキャリアにおいて初のコンセプトアルバムという大きな特徴を持っています。この記事では、『深海』の制作背景、レコーディング、楽曲解説、商業的成功、そしてそれを取り巻く様々なエピソードを詳細に解説します。

ニューヨークでのレコーディングとアナログサウンド

『深海』のレコーディングは、主に1995年12月下旬から1996年3月にかけて、ニューヨークのウォーター・フロント・スタジオで行われました。60～70年代のビンテージ機材を駆使したアナログレコーディングによって、アルバム全体に独特の温かみと深みのあるサウンドが実現しています。ジャケットデザインは、桜井和寿がアンディー・ウォーホルの作品からインスピレーションを得たもので、アートディレクションは信藤三雄が担当しました。

未収録シングルとアルバム構成

当時既にリリースされていたシングル『Tomorrow never knows』『everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-』『【es】～Theme of es～』『シーソーゲーム～勇敢な恋の歌～』は、アルバムのコンセプトに合わないという理由から『深海』には収録されませんでした。これらのシングルは、約9ヶ月後にリリースされた6thアルバム『BOLERO』に収録されています。

『深海』の収録曲は、曲間をほぼ設けずに構成されている点が特徴的です。複数の曲はシームレスに繋がっていて、まるで1つの長い楽曲を聴いているような感覚を与えます。当初、桜井和寿はアルバムタイトルを『シーラカンス』にすることを考えていたそうですが、メンバーからの反応を受けて『深海』に決定したというエピソードも残っています。また、発売前には『深海』と『BOLERO』を2枚組でリリースするという情報も流れていたようです。桜井自身は「『深海』は『BOLERO』の中の1曲として捉えている」と発言しており、アルバム全体の統一感を重視していたことが伺えます。

楽曲解説：多様な表現と深遠なテーマ

『深海』に収録されている楽曲は、バラエティに富んだ表現と深遠なテーマで構成されています。インストゥルメンタル曲『Dive』で始まるアルバムは、『シーラカンス』、『手紙』といった初期の楽曲から、後にシングルカットされた『名もなき詩』、『マシンガンをぶっ放せ』、『花 -Mémento-Mori-』といった人気曲まで、幅広い楽曲が収録されています。

各楽曲はそれぞれに背景や制作エピソードがあり、例えば『シーラカンス』は失われた愛や夢といったテーマを、『手紙』は高校時代の思い出を元に作られた楽曲です。『Mirror』は、桜井が山形の海でインスピレーションを得て、しゃぶしゃぶレストランで歌詞をメモしたというユニークなエピソードが語られています。『ゆりかごのある丘から』はアマチュア時代からの楽曲を再構築したもので、戦争をテーマにした歌詞は、より多くの人に共感してもらえるように改変されたとされています。

『So Let's Get Truth』は、道端でギターを演奏するというシチュエーションでレコーディングされ、ボブ・ディランを意識しながらも、長渕剛風の仕上がりになったという逸話も残っています。アルバム全体を貫くのは、桜井の当時の精神状態や、恋愛観、自己認識といった内面的な葛藤です。

ツアー『REGRESS OR PROGRESS』とアルバムの世界観

『深海』を引っ提げて行われたツアー『Mr.Children TOUR "REGRESS OR PROGRESS" '96-'97』では、追加公演『Mr.Children TOUR "REGRESS OR PROGRESS" '96-'97 FINAL』において、「OUT OF DEEP SEA（深海からの脱出）」というコンセプトの下、アルバム『深海』の楽曲が曲順通りに演奏されました。このライブは他のツアーとは異なる独特の雰囲気を持ち、映像作品『regress or progress '96-'97 tour final IN TOKYO DOME』でその様子を観ることができます。

商業的成功と桜井和寿の発言

『深海』はオリコンチャートで初週153.6万枚を売り上げ、当時のアルバムチャート歴代1位の記録を樹立しました。累計売上は274.5万枚に達し、前作を下回ったものの、男性アーティストによるアルバム初週ミリオン達成はB'zに次ぐ2組目という快挙でした。しかし、桜井和寿は発売前には「深海が売れなかったら大衆のせい」、発売後には「音楽の力だけでは売上につながらないから」と、やや挑発的な発言をしていたことでも知られています。これは、彼がアルバム制作中に強い精神的苦痛を抱えていたことと関連していると考えられます。インタビューでは自殺願望について触れた発言も残っており、その心情が『深海』という作品に色濃く反映されていると言えるでしょう。

まとめ

『深海』は、Mr.Childrenの音楽性における重要な転換期を示す作品です。ニューヨークでのレコーディング、アナログサウンド、コンセプトアルバムとしての完成度、そして商業的な成功は、彼らの音楽的才能と制作への情熱を証明しています。同時に、桜井和寿の当時の内面的な葛藤や、商業的な成功に対する複雑な思いも、このアルバムをより深いものとしています。このアルバムは、音楽史に残る名盤として、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

もう一度検索