深瀬昌久

深瀬昌久：私性と遊戯を追求した孤高の写真家

深瀬昌久（1934年2月25日 - 2012年6月9日）は、北海道美深町出身の写真家です。彼は、自身の内面や身近な存在を通して、写真表現における「私性」と「遊戯」を追求し、独自の作風を確立しました。

生い立ちと写真との出会い

深瀬は、1908年に祖父が創業した深瀬写真館の長男として生まれました。幼い頃から写真館の手伝いをさせられ、その経験から写真に対して複雑な感情を抱いていたと語っています。しかし、日本大学芸術学部写真学科への進学を機に上京し、広告会社勤務を経て写真家としての道を歩み始めます。家業の写真館は弟が継ぎ、深瀬は写真表現を追求する写真家としてのキャリアをスタートさせました。

写真家としての活動

1964年に日本デザインセンター、1967年には河出書房新社へと転職。しかし、河出書房新社の倒産を機に、1968年にフリーランスの写真家となります。以降は、雑誌媒体を中心に精力的に作品を発表し、独自のスタイルを確立していきました。

深瀬の作品は、家族、カラス、猫といった身近な題材を扱いながらも、その奥には深い孤独や感情が込められています。特に、代表作である写真集『鴉』（1986年）は、深瀬の心情を象徴するような、モノクロームで捉えられたカラスの群れが印象的です。この作品は、発刊から30年以上経った現在でも高い評価を得ており、深瀬の代表作として知られています。

不遇の時代と再評価

1992年、深瀬は不慮の事故により重度の障害を負い、作家活動を中断せざるを得なくなりました。以降、作品が公表されることはなく、忘れられた存在として扱われる時期が長く続きました。

しかし、2014年にトモ・コスガによって深瀬昌久アーカイブスが設立されたことをきっかけに、深瀬の作品は再び注目を集めるようになります。回顧展の開催や写真集の復刊が相次ぎ、これまで日の目を見ることのなかった作品群が公開され、その全貌が明らかになりました。2018年には、作家活動40年をまとめた写真集『MASAHISA FUKASE』が刊行され、2020年には瀬戸正人による伝記『深瀬昌久伝』も発表されました。

深瀬昌久の作品の特徴

私性：深瀬の作品は、自身の内面や感情を赤裸々に表現している点が特徴です。家族や身近な存在を通して、孤独や不安、愛情といった普遍的な感情を描き出しています。
遊戯性：深瀬は、写真表現に遊び心を取り入れることを意識していました。実験的な手法やユーモラスな視点を取り入れ、見る者を飽きさせない作品を生み出しています。
モノクローム：深瀬の代表作の多くは、モノクロームで撮影されています。モノクロームにすることで、被写体の持つ本質的な美しさや感情を際立たせています。

主な作品

『遊戯』（1971年）
『洋子』（1978年）
『鴉』（1986年）
『父の記憶』（1991年）
『家族』（1991年）

深瀬昌久の功績

深瀬昌久は、日本の写真史において重要な役割を果たした写真家の一人です。彼の作品は、写真表現の可能性を広げ、後進の作家たちに大きな影響を与えました。また、彼の作品は、私たちに人間の内面や感情について深く考えさせ、写真というメディアの力を改めて認識させてくれます。

深瀬昌久の作品は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。彼の写真は、私たちに人間の孤独や愛情、そして人生の美しさを教えてくれるでしょう。

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