淵に立つ

『淵に立つ』（英題: Harmonium）は、2016年に公開された深田晃司監督による日本・フランス合作映画です。浅野忠信が主演を務め、一見平穏に見える家族が、ある男の出現によって崩壊していく姿を描いています。第69回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞し、国内外で高い評価を得ました。

あらすじ

町工場を経営する利雄は、妻の章江、娘の蛍と一見平穏な日々を送っていました。しかし、ある日、利雄の旧友である八坂が突然現れ、彼の生活に波紋を投げかけます。前科を持つ八坂は出所したばかりで身を寄せる場所がなく、利雄は彼を自宅に住まわせることにします。章江は当初戸惑いますが、八坂の人柄に触れるうちに次第に心を開いていきます。娘の蛍もまた、オルガンの演奏が得意な八坂に懐き、彼からアドバイスを受けるようになります。

八坂はいつしか家族の一員のように溶け込みますが、ある日、章江に過去に殺人を犯したことを告白します。しかし、章江は八坂への信頼を深めており、彼の告白はむしろ彼女の感情を愛情へと変化させるきっかけとなります。八坂を核として家族が動き始めたと感じた時、彼の本性が露わになり、一家を混乱に陥れます。利雄は八坂の行動を目の当たりにし狼狽しますが、八坂は嵐のように去っていきます。

8年の月日が流れ、工場は平穏を取り戻していましたが、家族には癒えない傷跡が残っていました。利雄は、失踪した八坂を捜索させますが、時間とともに諦めが生まれていました。そんな中、工場に孝司という若者が働き始めます。孝司は熱意を持って仕事に取り組みますが、ある日、利雄に自分の父親が八坂であることを告げます。孤児で父親の記憶がないと話す孝司でしたが、彼の存在は家族の忌まわしい記憶を呼び起こします。利雄は章江に、八坂と自分にまつわる秘密を打ち明けますが、それはあまりにも遅い告白でした。

探偵の調査で得られた八坂らしき人物の写真を頼りに、家族は地方へと旅立ちます。その旅の果てに何が待ち受けているのか、家族は祈るような気持ちで未来を見つめます。

キャスト

八坂草太郎：浅野忠信
鈴岡章江：筒井真理子
鈴岡利雄：古舘寛治
山上孝司：太賀
設楽篤：三浦貴大
鈴岡蛍：篠川桃音
鈴岡蛍（8年後）：真広佳奈

スタッフ

監督・脚本・編集：深田晃司
主題歌：HARUHI「Lullaby」
音楽：小野寺浩幸

評価

本作は、家族の深層心理や社会の暗部をえぐり出すような、深田晃司監督ならではの演出が高く評価されています。登場人物たちの繊細な感情の変化や、予測不能な展開が見る者を惹きつけます。また、浅野忠信をはじめとするキャストの演技も素晴らしく、物語に深みを与えています。

『Variety』誌では、「ロベール・ブレッソンや大島渚に通じる批評的な思慮深さ」があると評され、『The Hollywood Reporter』誌では、深田晃司監督が「彼本来の調子を取り戻している」と評価されました。

受賞歴

第69回カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門 審査員賞
第38回ヨコハマ映画祭 主演女優賞（筒井真理子）、最優秀新人賞（太賀）
ELLE シネマ大賞2016 ベストディレクター賞（深田晃司）
第31回高崎映画祭 最優秀作品賞、最優秀主演女優賞（筒井真理子）
第90回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン 第3位
第71回毎日映画コンクール 女優主演賞（筒井真理子）
第67回芸術選奨 文部科学大臣新人賞（深田晃司）
第11回アジア・フィルム・アワード 主演男優賞（浅野忠信）
* 第17回ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア国際映画祭 観客賞

『淵に立つ』は、人間の心の奥底にある闇を描き出し、観る者に深い問いを投げかける作品です。

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