清水物語

『清水物語』は、江戸時代前期に朝山意林庵によって著された仮名草子であり、寛永15年（1638年）に敦賀屋久兵衛によって出版されました。この作品は、問答体という形式を用いて、当時の社会における思想や価値観を浮き彫りにしています。

構成は上下2巻からなり、上巻では清水観音を訪れる巡礼者と老人との間で交わされる問答が、下巻では上人とある男との問答が、それぞれ記録されたという体裁をとっています。これらの問答を通じて、仏教の教義に対する批判的な視点や、儒教的な道徳観が展開されています。

『清水物語』は、当時の読者から熱狂的な支持を受け、ベストセラーとなりました。その人気ぶりは、『祇園物語』の中で京の田舎で二、三千部も売れたと記述されていることからも窺えます。この作品の成功は、教義問答体小説という新たなジャンルの確立に貢献し、後世の文学作品にも影響を与えました。

作者は序文において、「文章の技巧を求める読者は、三史や文選といった古典を読むべきである。この物語には、特定の意図があることを理解してほしい。その意図以外は、過去の草紙に劣るだろう」と述べています。この言葉からは、作者が単なる娯楽作品としてではなく、自身の思想を読者に伝えることを意図していたことが読み取れます。

『清水物語』は、江戸時代の思想や文化、そして文学のあり方を理解する上で貴重な資料であり、教義問答体小説の先駆けとして、文学史においても重要な位置を占めています。

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