清沢洌

清沢洌：激動の時代を生きたジャーナリストと評論家

清沢洌（きよさわ きよし、1890年～1945年）は、日本のジャーナリスト、評論家として、特に日米関係に関する評論で知られています。戦後、太平洋戦争下の彼の詳細な日記『暗黒日記』が出版され、大きな反響を呼びました。名前の読みは「れつ」と表記されることも多く、本人も使用していました。

生涯

清沢は、長野県安曇野市（旧北穂高村）の裕福な農家の三男として生まれました。研成義塾で学び、17歳で渡米熱の高まりを受け、学生移民としてアメリカ合衆国ワシントン州へ渡りました。シアトルで塾生とともに「シアトル穂高倶楽部」を結成し、病院の清掃夫やデパートの雑役などをしながら、ホイットウォース・カレッジ、タコマ・ハイスクール、ワシントン大学などで学んだとされています。

1911年頃からは現地の邦字紙記者として「信濃太郎」の筆名で活躍し、日本人社会で著名な存在になりました。当時、アメリカ西海岸では日本人移民排斥運動が盛んでしたが、清沢は晩年まで日米友好を訴え続けました。1918年に帰国後、貿易関連の仕事を転々としたのち、1920年に中外商業新報（現在の日本経済新聞）に入社しました。

新聞記者時代とフリーランスへの転身

中外商業新報では日米問題に関する記事を執筆。大正デモクラシー、関東大震災、満州進出などを経て、国内問題や対中関係も執筆対象となりました。1927年には東京朝日新聞に移籍し、新聞以外での著作活動も活発に行いました。対米関係では協調路線、国内では反官僚主義・反権威主義を主張し、石橋湛山の「小日本主義」と共通点を持つ一方で、リベラルな論調は右翼からの激しい批判を受けました。

1929年、東京朝日新聞を退社し、フリーランスの評論家となりました。1929年から1932年にかけて欧米で取材・執筆を行い、アメリカの「暗黒の木曜日」や大恐慌、ロンドン海軍軍縮会議などを体験しました。この間、チェコスロバキア外務大臣ベネシュやイタリア首相ムッソリーニらとも会見し、その記録を公刊しました。満州事変や第一次上海事変も現地で体験し、日本の大陸進出に対するアメリカの厳しい世論を目の当たりにしました。

戦前の活動と戦時下の言論

帰国後は日本の内政・外交を鋭く評論し、満州国問題や国際連盟での議論などを巡り、内田康哉外相や松岡洋右を批判しました。数々の講演や著作を通して、商業主義的なジャーナリズムを批判し、自由主義の立場を明確にしました。1937～1938年には国際ペン・クラブ世界会議の日本代表として欧米を訪問し、講演活動や新聞投書などを通じて日本の立場を擁護しました。しかし、それは彼自身の主張とは異なる日本の外交政策を間接的に支持することにもなりました。

1941年、情報局から執筆禁止者リストに名を連ね、直接的な意見表明が困難になります。その後は外交史に関する著作を通じて間接的に当時の政策を批判しました。『外交史』『日本外交史』などの著書や、匿名執筆による時事問題への言及、ダンバートン＝オークス会議に関する分析などが知られています。

『暗黒日記』と最期

1942年から「戦争日記」を執筆開始。官僚主義の弊害、迎合的なジャーナリズム、国民の無知、モラルの低下などを記録しました。この日記は1954年に『暗黒日記』として出版され、大きな影響を与えました。1945年5月21日、急性肺炎のため死去しました。吉田茂や石橋湛山らと親交があり、戦後も重要な役割を果たしたであろうと推測されています。

著作

清沢洌は多くの著作を残し、その中には日米関係、国内政治、国際情勢に関する鋭い分析や批評が含まれています。『米国の研究』『モダンガール』『自由日本を漁る』『アメリカは日本と戦はず』『暗黒日記』など、多岐にわたるテーマの作品が彼の思想を伝えています。

清沢洌の思想と影響

清沢洌の生涯と業績は、激動の時代におけるジャーナリズムと評論家の役割、そして日米関係や国際平和への深い洞察を示しています。『暗黒日記』は太平洋戦争下の日本の現実を記録した貴重な資料であり、彼の自由主義、反官僚主義、平和主義的な思想は、現代にも通じる重要な示唆を与え続けています。彼の著作は、日本の近代史、外交史、そしてジャーナリズム史を研究する上で重要な資料となっています。

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