渚にて (小説)

『渚にて』

『渚にて』（原題：On the Beach）は、ネヴィル・シュートが1957年に発表した小説で、核戦争後の終末世界を舞台にした物語です。1959年にはスタンリー・クレイマー監督により映画化され、2000年にはテレビドラマ化もされました。作品は、第三次世界大戦によって人類が滅亡に向かう中、生き残った人々の葛藤と、迫りくる終末を前にしたそれぞれの選択を深く描いています。

あらすじ

物語の舞台は1964年。第三次世界大戦により、北半球はコバルト爆弾による高放射線に汚染され、壊滅状態となります。深海潜航中で難を逃れたアメリカ海軍の原子力潜水艦スコーピオン号は、放射線汚染の影響が比較的少ない南半球のオーストラリア・メルボルンへたどり着きます。メルボルンでは、戦争の影響を受けずに日常生活を送る人々がいましたが、放射線汚染は徐々に迫っていました。

そんな中、アメリカのシアトル付近から謎の電波が発信されていることが判明します。生存者の可能性を信じ、スコーピオン号の艦長であるドワイト・ライオネル・タワーズ中佐、科学者のジョン・S・オスボーン、オーストラリア海軍のピーター・ホームズ少佐らは、電波の発信源とされるワシントン州ピュージェット・サウンドのサンタ・マリア島へ向かいます。調査の結果、電波はアメリカ海軍の通信学校から発信されていたことが判明しますが、そこには生存者はおらず、電鍵を叩いていたのは風で揺れるコカ・コーラの空き瓶でした。

帰還後、放射線汚染が南下していることが判明し、南半球の人類の滅亡も避けられない状況となります。絶望的な状況の中、多くの人々は南への逃避による延命ではなく、安楽死を選択します。街は徐々に活気を失い、放射線病患者が増えていく中、タワーズ中佐はアメリカ海軍軍人としての死を選ぶため、スコーピオン号をオーストラリア領海外で自沈させることを決意します。

時代背景

小説では、アルバニアによるナポリ爆撃が発端となり、エジプト軍の爆撃機によるワシントンとロンドンへの爆撃が第三次世界大戦の引き金となったとされています。これは、執筆当時のスエズ動乱を背景にしていると推測できます。2000年のテレビドラマ版では、中国による台湾封鎖が戦争のきっかけとなり、アメリカからのメッセージはモールス信号ではなく文字化けした電子メールとして描かれています。

また、核兵器による放射線被曝については、作中では放射線障害の描写や被曝に関する誤った認識も見られます。

原子力潜水艦スコーピオン号は、1957年1月に建造計画が発表され、1960年7月に就役した当時の最新鋭の潜水艦でしたが、1968年5月22日に事故により喪失しています。

日本語訳

『渚にて』は、複数の翻訳版が出版されています。代表的なものとしては、木下秀夫訳（1958年）、井上勇訳（1965年）、山路勝之訳（1976年）、そして佐藤龍雄訳（2009年）があります。

映画

1959年に公開された映画版は、スタンリー・クレイマーが監督を務め、グレゴリー・ペックが主演しました。映画はモノクロ作品であり、第17回ゴールデングローブ賞作曲賞、第14回英国アカデミー賞監督賞、そして第11回ブルーリボン賞外国作品賞を受賞しています。しかし、原作からの変更点が多かったため、原作者のシュートは映画版を不評に思っていたとされています。

映画の公開後、日本では第三次世界大戦をテーマにした作品が複数制作されました。

キャスト

2023年8月4日発売のBlu-rayには、NET版の吹替音声が収録されています。

関連項目

T・S・エリオット: 小説の原題は、エリオットの詩「The Hollow Men」の一節「Gathered on this beach of the tumid river」に由来しています。
エンド・オブ・ザ・ワールド: テレビドラマ版のタイトルです。
復活の日: 同じく核戦争後の世界を描いた作品です。

脚注

外部リンク

渚にて - allcinema
渚にて - KINENOTE
On the Beach - オールムービー（英語）
On the Beach - IMDb（英語）
On the Beach - Google ブックス
* 渚にて 人類最後の日 - Google ブックス

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