渡辺修渡舟

渡辺修渡舟：新しき村の芸術家

1935年、鳥取県に生まれた渡辺修渡舟（わたなべおさむとしゅう）は、画家にして彫刻家でした。幼少期から絵画への強い情熱を抱き、将来は教員として働きながら絵を描くことを夢見ていました。しかし、高校教師をしていた兄の話を聞き、教員と芸術家の両立に疑問を感じます。

その後、渡辺は実家の農業を手伝いながら、両親を説得し、武者小路実篤が理想郷として建設した「新しき村」に入村しました。そこで彼は農業や養鶏に従事する傍ら、絵画や彫刻の創作活動に没頭。新しき村での日々の生活の中で、絵筆をとり続け、絵画教室を開くなど、芸術家としての道を歩み始めました。

新しき村での生活は、渡辺の芸術家としての成長に大きく貢献しました。彼は武者小路実篤や高田博厚といった著名な芸術家から指導を受け、その才能を開花させていきます。武者小路実篤からは「芸術家に生まれたような男」と評され、高田博厚からは「生一本の熱情と誠実さ」を認められました。こうした評価は、彼の芸術への真摯な姿勢を示しています。

渡辺は故郷である山陰地方を10年以上にわたって写生し、約300点の作品を制作しました。その中には、122点の作品を展示した大規模な個展「心の山陰百景展」（1987年、埼玉県立近代美術館）もあります。この展覧会は、彼の代表作として高く評価され、山陰地方の自然美と彼の深い感性が融合した作品群は、多くの人の心を捉えました。また、長さ33メートルにも及ぶ巻物形式の作品『毛呂のやぶさめ』も制作しており、そのスケールの大きさも特筆すべき点です。

渡辺はアトリエ長杉荘を拠点に創作活動を続け、晩年は妻のナヲとともに新しき村での生活を送り、芸術家としての道を歩み続けました。2007年に逝去しましたが、彼の作品は現在も人々に感動を与え続けています。2018年には、アトリエ長杉荘が一般公開され、より多くの人が彼の作品に触れる機会が得られるようになりました。

渡辺修渡舟は、新しき村という独特な環境の中で、理想を追い求めながら芸術家としての人生を全うしました。彼の作品は、自然への深い愛情と、人間としての誠実さを反映しており、私たちに深い感動とメッセージを与えてくれます。彼の生涯と作品は、芸術と社会、そして自然との調和について、多くの示唆を与えてくれるでしょう。彼の作品を通して、私たちは彼の人生哲学に触れ、自身の生き方について改めて考える機会を得るのではないでしょうか。

年譜

1935年：鳥取県東伯郡中山村（現・西伯郡大山町）に生まれる。
1955年：新しき村に入村。
1959年：銀座・なすび画廊にて初の個展開催。
1961年：高橋ナヲと結婚。
1965年：アトリエ長杉荘完成。
1976年：山陰百景の制作開始。
1987年：埼玉県立近代美術館で「心の山陰百景展」開催。
2007年：死去。
2017年：妻・ナヲ死去。
2018年：アトリエ長杉荘一般公開。

主な展示場所

* アトリエ長杉荘

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