渡辺博之

渡辺博之：華麗なる野球人生と悲劇の最期

渡辺博之は、1921年1月1日、大阪府大阪市阿倍野区に生まれた。旧制桃山中学校卒業後、同志社大学に進学し、野球部で頭角を現す。在学中は関西六大学リーグで活躍、チームの優勝に大きく貢献した。卒業後、応召を経て会社員生活を送るが、その後独立、洋品雑貨店を経営する傍ら、アマチュア野球チーム「全大阪」に所属し、都市対抗野球にも出場した。

1949年末、28歳という年齢で大阪タイガースの二軍監督に就任した旧友、森田忠勇氏の縁もあり、大阪タイガースに入団。契約金を受け取らず、球団に預けたままというエピソードも残る。当初は投手として一軍に昇格するも、すぐに右翼手に転向。その後はクリーンアップを任されるようになり、1950年には打率.301、11本塁打、44打点と活躍を見せた。特に1954年は、91打点で杉山悟選手と共に打点王のタイトルを獲得。シーズン1桁本塁打で打点王となったのは、2リーグ制以降では渡辺選手ただ一人である。この年は打率.353でリーグ2位、ベストナインにも選ばれている。1955年も打率3割を記録し、2年連続でベストナインを受賞した。

1956年には一塁手に転向。翌年、チーム内で起きた藤村富美男選手排斥事件では、どちらの派閥にも属さず、結果的に両者から反発を買ってしまう。1957年までレギュラーとして活躍した後、1958年2月、近鉄パールスへ移籍。1959年にはロン・ボトラ選手とレギュラーの座を争ったが、同年オフ、38歳で現役を引退した。

現役引退後は母校である同志社大学で講師、助教授、教授を歴任。1961年からは野球部監督に就任、18年間でチームを指導。1973年には春季リーグ全勝優勝、全日本大学野球選手権大会出場、秋季リーグでは明治神宮大会準優勝と、輝かしい成績を残した。1978年には明治神宮大会で初優勝を飾るも、同年監督を退任した。指導者としては、久野剛司、笹本信二、田尾安志、島田芳明、中本茂樹といった多くのプロ野球選手を育成。厳格な指導で知られ、教え子たちからは敬愛と畏敬の念を抱かれていた。田尾安志選手には、プロ入り前に「ただ飯、ただ飲みはするな。自分のふんどしで相撲を取れ」と忠告した逸話も残る。

1984年には『首位打者へ燃える円熟のリードオフマン・田尾安志』を出版。しかし、1990年10月2日、京都市内の自宅で妻と共に心中した。69歳没。持病の心臓病の悪化と家庭内のトラブルが原因と推測されている。

選手としては、170cmの小柄な体格ながら、持ち前の明るさと、投手経験を生かした冷静な打撃で人気を博した。チャンスに強く、数々の記録を残した。

渡辺博之は、選手として、指導者として、華々しい成功を収めた一方、晩年は家庭内の問題を抱えていた。その生涯は、華麗さと悲劇が複雑に絡み合ったものと言えるだろう。彼の功績は、野球界に長く記憶されるであろう。

もう一度検索