渡辺定夫

渡辺 定夫：日本のアーバンデザインを牽引した教育者・実践者

渡辺 定夫（わたなべ さだお）氏は、1932年に東京で生まれ、日本の都市計画およびアーバンデザイン分野において、教育者として、また実務家として多大な功績を残した人物です。東京大学名誉教授の称号を持ち、その専門知識と指導力によって、アーバンデザインという概念を日本社会に深く根付かせ、多くの専門家を育成しました。

氏の学歴は、まず1951年に東京都立新宿高等学校を卒業したことに始まります。その後、東京大学工学部建築学科に進み、1956年に卒業。さらに同大学の数物系大学院建築専門課程で修士課程を修了し、博士課程へと進み、深い専門知識を習得しました。長年の研究と実績が認められ、1984年には工学博士の学位を授与されています。

教育者としてのキャリアは、1984年に東京大学教授に着任したことで本格的にスタートしました。大学では、都市計画やアーバンデザインに関する講義や研究指導を行い、多くの学生や研究者に影響を与えました。東京大学を1993年に退官後、名誉教授の称号を授与され、引き続き後進の指導にあたる傍ら、同年からは工学院大学の教授としても教壇に立ちました。

渡辺氏の実践家としての側面も特筆すべき点です。その活動は多岐にわたり、日本の主要な都市開発プロジェクトや景観形成に関与しています。例えば、日立駅前の再開発においては、「都市デザイン委員会」の委員長として指導的役割を果たしました。また、1979年から1981年にかけて行われた土浦市のまちづくりでは、川手昭二氏（筑波大学）、蓑原敬氏、聚文化研究所といった他分野の専門家と連携し、計画の推進に貢献しました。歴史的な遺産に関わる活動も重要であり、史跡高松城跡の整備検討委員会の委員長を務めたほか、NPOなどによる文化財建造物活用の推進委員会の委員長としても、文化遺産の適切な保全と活用に尽力しました。

大規模な都市開発プロジェクトでは、1995年から2000年にかけての幕張ベイタウンの調整役を蓑原敬氏と共に担い、その成果はグッドデザイン賞（アーバンデザイン部門）受賞という形で高く評価されました。また、横浜市の都市美対策審議会会長として、港湾都市横浜の美しい景観維持・向上にも貢献しました。さらに、九州の文化・芸術振興プロジェクトであるくまもとアートポリスの選定委員を務めるなど、幅広い分野で専門性を発揮しました。

特に、都市デザインの具体化という点で大きな足跡を残したのが、みなとみらい線のデザイン委員会委員長としての活動です。1993年から2004年までこの要職を務め、鉄道駅やその周辺空間のデザインを統括・指導し、これもまたグッドデザイン賞（アーバンデザイン部門）を受賞するなど、高いデザイン性と機能性を両立させた都市インフラ整備に貢献しました。

これらの業績に対し、学術的な評価も得ています。1985年には、「地方都市と大学立地に関する一連の研究」によって日本都市計画学会論文賞を受賞。1988年には日本都市計画学会設計賞および日本建築学会賞論文賞を受賞しており、理論と実践の両面で日本の都市計画学界を牽引する存在でした。

著書も複数あり、『今井の町並み』（1994年）、放送大学教材として刊行された『新しい都市居住の空間』（1997年）などがあります。また、エドモンド・ベーコンの古典的名著『都市のデザイン』（1968年、鹿島出版会）の翻訳を手がけるなど、海外の優れた都市デザイン思想の紹介にも努めました。さらに、『新建築学大系』の「都市設計」の章を共著で執筆するなど、学術的な普及活動も積極的に行いました。

渡辺定夫氏は、単なる計画立案にとどまらず、教育を通じて次世代を育成し、具体的なプロジェクトに関わることでアーバンデザインの実践領域を広げ、そして海外の知識を紹介することで日本の都市デザイン界の基盤を築き上げた、まさに多角的な貢献を果たした日本の都市計画分野における重鎮と言えるでしょう。

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