渡辺憲正

社会学者・渡辺憲正の学問的軌跡

渡辺憲正（わたなべ のりまさ）氏は、1948年6月20日に静岡県清水市（現在の静岡市清水区）に生まれた日本の社会学者である。現在は関東学院大学の教授を務め、特にマルクス哲学や唯物論研究を専門分野としている。また、日本の学界において重要な役割を果たしており、日本哲学会の理事や、かつては唯物論研究協会の委員長も歴任した人物である。

学びの道とキャリアの始まり

渡辺氏の学問への道は、1973年に東京大学教育学部教育哲学科を卒業したことから始まった。さらに深く社会学を研究するため、一橋大学大学院社会学研究科の博士課程に進学し、1982年に所定の単位をすべて修得して満期退学した。この大学院時代には、著名な社会学者であり思想史家であった良知力氏に師事し、その指導のもとで研究を深めた。良知氏からの薫陶は、その後の渡辺氏の研究スタイルや問題意識に大きな影響を与えたと考えられている。

大学院での学びを終えた後、渡辺氏は教育・研究者としてのキャリアをスタートさせる。まずは母校である一橋大学で研究助手として勤務し、研究活動に従事した。その後、中国短期大学へと移り、ここでは講師、そして助教授として教鞭をとった。この時期には、教育者としての経験を積み重ねるとともに、自身の研究テーマをさらに発展させていった。

関東学院大学での貢献

1992年、渡辺氏は関東学院大学経済学部に助教授として着任した。その後、教授に昇任し、長期にわたり同学で教育と研究の最前線に立ち続けている。経済学部において、社会学や哲学の視点から、学生たちの多角的な思考力の育成に貢献してきた。

また、学内の要職も務めた経験がある。2007年には大学の副学長に就任し、大学運営に深く関わった。この副学長在任中には、当時注目を集めた同大学ラグビー部員による不祥事（大麻事件）が発生した際、責任ある立場としてその対応にあたった。事態の収拾に向けて、関係各所との連携を図り、関東ラグビーフットボール協会への報告書提出など、問題解決に向けた一連の作業を主導した。こうした経験は、研究活動とは異なる側面から大学のあり方と社会との関係を考える機会となっただろう。

学会活動と専門分野

渡辺氏は、その専門分野である社会学および哲学の領域において、活発な学会活動を展開している。唯物論研究協会では、2008年に委員長を務め、この分野の研究振興に貢献した。また、日本の哲学研究の中心的な学会である日本哲学会においても重要な役割を担ってきた。2011年には評議員に選出され、2017年からは理事および評議員を兼任するなど、同学会の運営と発展に貢献している。これらの活動を通じて、自身の研究成果を発信するだけでなく、後進の研究者の育成や、学術コミュニティ全体の活性化に尽力してきた。

主な研究業績

渡辺氏の研究は、主にマルクス哲学、特に唯物論やイデオロギー論に焦点を当てている。近代社会が抱える問題や、現代におけるマルクス思想の意義について、深い考察を展開してきた。その研究成果は、多くの著作として結実している。

単著

『近代批判とマルクス』青木書店、1989年
『イデオロギー論の再構築 マルクスの読解から』青木書店〈シリーズ現代批判の哲学〉、2001年
『ドイツ・イデオロギー』の研究: 初期マルクスのオリジナリティ、2022年

共著・編著

『格差社会とたたかう 〈努力・チャンス・自立〉論批判』後藤道夫、吉崎祥司、竹内章郎、中西新太郎と共著、青木書店〈現代のテキスト〉、2007年
『戦後マルクス主義の思想 論争史と現代的意義』岩佐茂、島崎隆、東京唯物論研究会と共編著、社会評論社、2013年
『資本主義を超える マルクス理論入門』平子友長、後藤道夫、蓑輪明子と共編、大月書店、2016年

翻訳

エーリヒ・フロム著、ライナー・フンク編『愛と性と母権制』滝沢海南子と共訳、新評論、1997年
マルクス、エンゲルス『フォイエルバッハ論 マルクス・フォー・ビギナー』大月書店、2010年

これらの著作に見られるように、渡辺氏はマルクス思想を現代社会の諸問題と関連づけながら、その可能性を探求し続けている。特にイデオロギー論の再構築や、初期マルクスの思想に焦点を当てた研究は、この分野における重要な貢献として評価されている。

結び

渡辺憲正氏は、長年にわたり社会学、特にマルクス哲学・唯物論研究の分野で教育・研究活動を続けてきた。大学での教鞭、学術団体の要職、そして著作活動を通じて、多くの研究者や学生に影響を与え、日本の社会学・哲学の発展に寄与してきた。その学問的遺産は、今後もこの分野の研究に示唆を与え続けるだろう。

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