渡部徹

渡部徹：戦前日本の社会運動を深く探求した社会運動史学者

渡部徹（わたなべとおる、1918年3月5日-1995年3月16日）は、20世紀日本の社会運動史研究において重要な役割を果たした歴史学者です。専門は戦前の労働運動と社会運動で、京都大学名誉教授の称号も得ています。

大阪府出身の渡部氏は、京都帝国大学を卒業後、大阪経済大学で助教授を務めた後、京都大学人文科学研究所へと移りました。1969年には教授に昇格し、日本の社会運動研究の中枢を担う存在となりました。1982年に京都大学を定年退官した後は、愛知女子短期大学教授として後進の育成にも尽力しました。

渡部氏の研究は、単著・共編著合わせて多数にのぼる著作物に集約されています。その業績は、戦前日本の社会運動の実態を詳細に明らかにしただけでなく、当時の社会状況や思想的背景を深く分析した点にも特徴があります。

代表的な単著として、『日本の労働運動』（1949年）では、日本の労働運動の黎明期から戦前までの歴史を網羅的に考察しています。また、『日本労働組合運動史 日本労働組合全国協議会を中心として』（1954年）では、特定の組織に焦点を当てた詳細な分析を提供しています。さらに、『現代労農運動史年表』（1961年）や『解放運動の理論と歴史』（1974年）など、様々な視点から社会運動を捉えた著作を発表しました。

共編著においても、渡部氏の多岐にわたる関心が見て取れます。『京都地方労働運動史』（1959年）では、地域社会における運動の展開を明らかにし、『米騒動の研究』（全5巻、井上清と共編、1959年-1962年）では、日本社会史における重要な事件を多角的に分析しています。また、『講座現代反体制運動史』（信夫清三郎・小山弘健と共編、1960年）や『日本社会主義運動史論』（飛鳥井雅道と共編、1973年）など、現代日本の社会運動を理解するための基礎となる研究も数多く手掛けています。さらに、『部落問題・水平運動資料集成』（全3巻補巻2、秋定嘉和と共編、1973年-1978年）のような、マイノリティの運動に焦点を当てた貴重な資料集成にも携わっています。

晩年には、『一九三〇年代日本共産主義運動史論』（1981年）や『大阪水平社運動史』（1993年）といった、特定の時代や運動を深く掘り下げた研究を発表しています。これらの著作は、今日でも社会運動史研究において重要な参考文献として活用されています。

渡部徹の研究は、単に過去の事実に光を当てるだけでなく、現代社会を考えるための重要な視点を提示しています。彼の膨大な著作群は、戦前日本の社会運動を理解し、現代社会の課題を考える上で、不可欠な資料となっています。日本の社会運動史研究に大きな足跡を残した渡部徹の功績は、これからも高く評価されるべきでしょう。

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