渡部隆

渡部隆：アニメーション美術の巨匠

渡部隆氏（1959年生まれ）は、日本のアニメーション業界において、その類まれな才能と緻密な描写で知られる、アニメーター、メカニックデザイナー、そして美術スタッフです。新潟県上越市出身。東京造形大学ビジュアルデザイン科卒業。

当初は漫画家を目指していましたが、自身の漫画作品を世に送り出すため、イラストレーターとしての活動を開始。ハヤカワ文庫の装丁画などを手がけ、キャリアを積んでいきます。その後、友人からの紹介をきっかけに、映画『SF新世紀レンズマン』のCGオペレーターとして参加。これが、彼のアニメーション業界における実質的なデビューとなりました。CGイメージボードからメカニックデザイン、イラストまで幅広く担当し、その才能を開花させます。

その後、数々のアニメーション作品に携わり、マッドハウス作品をはじめ、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『AKIRA』『CYBER CITY OEDO 808』『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』など、劇場アニメやOVA制作に美術スタッフとして参加。正確なパースペクティブと、レンズの歪みまで計算されたリアルな描写は、彼の大きな特徴であり、多くのアニメーターに影響を与えました。

特に『機動警察パトレイバー the Movie|機動警察パトレイバー_the_Movie』における、レンズの歪みを考慮した美術設定とレイアウトは、後続作品『機動警察パトレイバー 2 the Movie』のカメラワークやレンズ表現に大きな影響を与え、その後のアニメーション制作に革新をもたらしました。それ以降、押井守監督作品やProduction I.Gの作品には欠かせない存在となっています。

彼の高い技術力は、レイアウトだけでなく、3DCGモデリングにも及んでいます。その仕事ぶりは、大友克洋氏をはじめとする多くのアニメーターから高い評価を受けており、今敏氏からはアニメ業界における影響者として名前が挙げられています。「『この建物・この空間をここから見て、このレンズで見たら、すごく魅力的に見える』という視点を常に持っている」「渡部さんがいなかったら、今のアニメ界の状況はないですね。彼のおかげで、背景の比重が従来より大きくなったのは間違いないでしょう」と、その功績を称賛する言葉が残されています。

参加作品

渡部隆氏の参加作品は多岐に渡り、そのキャリアの長さと幅広さを物語っています。以下に、一部の代表的な作品を列挙します。（制作年順）

1984年 『SF新世紀レンズマン』 メカニックデザイン
1987年 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』 プロダクションデザイン・レイアウト
1988年 『AKIRA』 美術設定・レイアウト
1989年 『機動警察パトレイバー the Movie|機動警察パトレイバー_the_Movie』 レイアウト
1990年 『CYBER CITY OEDO 808』 設定デザイン・メカニックデザイン
1993年 『機動警察パトレイバー 2 the Movie』 レイアウト
1995年 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊|GHOST_IN_THE_SHELL___攻殻機動隊』 美術設定・レイアウト
2000年 『人狼 JIN-ROH』 美術設定・レイアウトチェック
2004年 『イノセンス』 美術設定・レイアウト
2006年 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX|攻殻機動隊_STAND_ALONE_COMPLEX Solid State Society』 美術設定
2008年 『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』 美術設定・レイアウト
2012年 『009 RE:CYBORG』 美術設定
2015年 『攻殻機動隊 新劇場版』 美術設定
2021年 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 メカニックデザイン

これらの作品以外にも、多くのアニメーション作品に携わり、美術設定やレイアウト、メカニックデザインなど、様々な分野で才能を発揮しています。また、漫画『沙流羅』のSF設定にも参加するなど、その活動は多方面に広がっています。渡部隆氏は、日本のアニメーション史に大きな足跡を残した、まさに巨匠と言える存在です。

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