温泉郷

温泉郷の概要

日本における温泉郷（おんせんきょう）は、温泉や温泉街が集まって形成される地域を指します。この言葉自体には法的な定義や規定がないため、どの範囲を「温泉郷」とするかは観光業界や地域によって異なります。温泉郷という表現は、日本の旅行ガイドブックにおいて広く使用されています。

歴史と発展

この「温泉郷」の言葉が使われ始めたのは、19世紀の終わりから20世紀の初めです。具体的には、大町桂月の1909年著書『行雲流水』や、田山花袋の1918年の『温泉めぐり』に見られます。それ以前は、温泉地がその数で呼ばれていました。たとえば、箱根や別府では「箱根七湯」「別府十湯」といった具体的な湯の数を用いた表現が主流でした。

第二次世界大戦前の鉄道省が作成した『温泉案内』において「温泉郷」という言葉が多く使われるようになり、一般にも広く認知されるようになりました。また、戦後、国民保養温泉地に指定される際も「温泉郷」という表記が利用され、1957年には熊野本宮温泉郷が最初の指定事例となりました。

観光名所としての温泉郷

その後、観光の名を馳せる温泉地も、自ら「温泉郷」を名乗ることが増えてきました。これは、知名度を上げるために既存の有名な温泉地の名を借りるケースもあります。また地元の観光協会が市町村名を用いて、地域をアピールする場合も少なくありません。

近年では、温泉郷という表現は伽藍堂な響きを持つため、多くの温泉地が観光宣伝で使用しています。これは、昔ながらの温泉街の風情を強調しようとする一方で、独自の新興温泉が生まれている現状と対立する形でもあります。しかしこのために、実際には新たに開発された温泉地も「温泉郷」の名称を使用し、差別化の試みが逆効果になっていることもあるのです。

温泉郷のさまざまな範囲

温泉郷はその範囲で異なる起源があります。たとえば、山に由来する温泉郷としては「乳頭温泉郷」（乳頭山）や「八幡平温泉郷」などがあります。また川に基づく温泉郷には「奥入瀬渓流温泉」や「塩原温泉郷」が存在し、河川が地域を形作っています。

一方、地域名が名前の由来になっている例としては「奥飛騨温泉郷」や「加賀温泉郷」があり、行政区分に基づくものでは「碇ヶ関温泉郷」や「黒石温泉郷」があります。場合によっては、一つの地域に複数の温泉が含まれた形で「温泉郷」というネーミングがなされることもあります。

まとめ

温泉郷という言葉は観光業界や地域振興において非常に重要な役割を果たしています。温泉地は多様な特徴を持つため、各地の実情に応じてこの表現が用いられますが、その範囲や定義については様然としたものがないため、様々な解釈が存在しています。温泉郷という名称が持つ魅力の一分を見逃さず、地元の温泉を楽しむことが出来れば嬉しい限りです。

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