大町桂月

大町桂月：多才な文人、そして自然愛好家

大町桂月（1869-1925）は、明治から大正時代にかけて活躍した、高知県出身の文人です。詩歌、随筆、評論、紀行文など、その活動は多岐に渡り、洗練された文体で広く読まれました。本名は芳衛。雅号の桂月は、桂浜にちなむものです。

華麗なる文才と多様な作品

東京帝国大学国文科卒業後、島根県で中学教師を務めた後、博文館に入社。1906年までの在籍中に『文芸倶楽部』『太陽』『中学世界』などに多くの随筆を発表し、その美しい文章で高い評価を得ました。

桂月の作品は、韻文、随筆、紀行、評論、史伝、人生訓など、実に多様性に富んでいます。和漢混在の独特な表現を用いた紀行文は特に人気があり、その格調高い文体から「擬古派」とも称されました。1902年には『明治国民亀鑑』の編纂にも携わっています。

1913年に出版された処世訓集『人の運』はベストセラーとなり、多くの読者に影響を与えました。また、明治大学でも教鞭を執るなど、教育にも尽力しました。

旅と酒を愛した生涯

桂月は生涯を通して酒と旅を愛し、「酒仙」や「山水開眼の士」と呼ばれていました。晩年には朝鮮や満州（中国東北部）への旅行も行っています。

北海道の層雲峡や羽衣の滝は、桂月が名付けたと言われています。北海道各地を旅した経験を基にした紀行文は、多くの人々に北海道の魅力を伝えました。大雪山系の黒岳の近くには、桂月を記念して「桂月岳」と名付けられた山もあります。

十和田湖への深い愛着と国立公園運動

桂月は十和田湖と奥入瀬に深い愛情を抱いていました。1908年に初めて十和田湖を訪れて以来、その魅力を『太陽』誌に掲載した「奥羽一周記」などで広く紹介しました。1923年には、十和田湖を中心とした国立公園の設置を請願するなど、国立公園運動にも尽力しました。晩年は蔦温泉に居住し、1925年に同地で亡くなりました。

与謝野晶子との交流と論争

与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」に対して、桂月は『太陽』誌上で批判的な意見を述べました。この論争は、当時の社会情勢を反映したものでした。しかし、この論争以前は、桂月は晶子の才能を高く評価しており、親交も深かったと言われています。晶子は桂月の死を悼んで追悼文を寄せています。

後世への影響と顕彰

現在、大町桂月の評価は、当時の社会通念に沿った発言が、現代の視点からは国粋主義的に映るという側面もあります。しかし、多様な分野で活躍し、美しい文章で多くの人々を魅了した彼の功績は、高く評価されるべきでしょう。

蔦温泉には大町桂月資料館が、桂浜には顕彰碑が建立されています。彼の作品は現在も、多くの人に読まれ続けています。

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