乳頭山

乳頭山（にゅうとうさん）

乳頭山は、秋田県仙北市と岩手県岩手郡雫石町にまたがる山で、十和田八幡平国立公園の中に位置しています。遠くから見るとゆったりとした印象を受けますが、山頂の東側は断崖絶壁となっており、その景観は見る者を圧倒します。山頂は現在、崩壊が進んでおり、以前は存在した三角点も失われ、地形図からも抹消されています。

名称の由来

秋田県側から見ると、山容が乳房を伏せた形に見えることから「乳頭山」と名付けられました。一方、岩手県側からは烏帽子のように見えるため、「烏帽子岳」や「烏帽子山」とも呼ばれています。国土地理院の地図では「烏帽子岳（乳頭山）」と表記されていますが、登山関連の書籍では「乳頭山」または「乳頭山（烏帽子岳）」と表記されることが多いです。

歴史を遡ると、1723年の記録には「にうつぶり嶽」や「によつぶり」という名称で記されています。公式文書では「乳首嶽」とも記載されていました。「によつぶり」は2つあり、それぞれ乳頭山と畚岳を指していたとされています。このことから、かつては2つの乳首が対になった形として認識されていたことが伺えます。現在の「乳頭山」という名称は、明治以降の記録に見られるもので、「にうつぶり」を乳首と解釈したことに由来します。さらに古い記録では「におつぶり」という名称も存在し、稲作に関係する「ニオ（穂積）」に由来するという説もあります。近くには田代平湿原があり、稲作の神山の「ニオの頭」を連想させた可能性も指摘されています。

多様な植物

乳頭山は、高山植物の宝庫としても知られています。山頂の岸壁地帯では、イワウメ、ガンコウラン、コケモモ、ミヤマキンバイ、マルバシモツケなどが見られます。絶壁の周辺にはリシリシノブも生育しています。山頂付近の草原には、タテヤマウツボグサ、タカラコウ、ミヤマタウコギが密生しており、少し下るとホソバイワベンケイ、ミヤマリンドウ、ノイチゴ、ミツバオウレンなども見られます。さらに下ると、ハイマツとミヤマキンバイの群落が現れ、その中にはミヤマネズやミヤマビャクシンが点在しています。藪を抜けると、シロバナシャクナゲ、ゴゼンタチバナ、アオヤギソウなどが見られます。頂上から数十分下ると、田代平湿原に到着します。この湿原には大小の池塘が点在し、豊富な湿地植物が繁茂しています。登山道の脇には、無人の山小屋である田代平山荘が建っています。

登山ルート

乳頭山への登山ルートは複数あり、黒湯温泉から一本松沢沿いに登るルートが最も短く、多くの登山者に利用されています。山頂までの所要時間は約2時間です。他にも、孫六温泉から田代平を経由するルート、岩手県側の滝ノ上温泉からのルート、秋田駒ヶ岳方面からの縦走コースなどがあります。

この一帯は、良質なタケノコが採れるため、入山者が多く、遭難騒ぎも後を絶ちません。道に迷った人が沢を下ると、必ず通る沢の出会いには「あなたは山で迷いました。こちらの沢を下ってください」という道標が設置されています。これは、迷った際に沢を下るのが危険であることを示すもので、安全な登山のために重要な情報です。

また、乳頭山の東側斜面にある断崖絶壁では、ロッククライミングを楽しむ人もいます。このように、乳頭山は登山だけでなく、多様なアクティビティが楽しめる山として、多くの人に親しまれています。

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