湯の丸レンゲツツジ群落

概要

湯の丸レンゲツツジ群落は、群馬県吾妻郡嬬恋村の湯の丸高原に位置する、国の天然記念物に指定されたレンゲツツジの群落です。上信越国立公園の南西部に位置し、群馬県と長野県の県境にまたがる標高1,800mから2,000mの高原地帯に広がっています。特に群馬県側の鹿沢温泉にかけての山腹斜面、約174ヘクタールが指定範囲となっています。

群落形成の経緯

この群落の特異な点は、自然に形成されたものではなく、牧畜という人間活動によって維持されてきたという点です。1904年（明治37年）から、この地域は家畜の放牧地として利用されてきました。レンゲツツジには有毒成分が含まれているため、牛や馬は食べません。そのため、放牧によって他の植物が食べられる一方で、レンゲツツジのみが残り、群落が形成されたと考えられています。この特異な環境が、レンゲツツジの純林に近い植生を作り出しました。

レンゲツツジは、日当たりの良い草原を好む植物であり、本来、森林が発達しにくい土壌に生育します。湯の丸高原一帯は、浅間山から続く火山性の地形と地質のため、元々は低木の混ざった場所にレンゲツツジが点在していました。しかし、放牧という人間の活動が、レンゲツツジの純林に近い状態を作り出したのです。植物学者の本田正次も、現地調査で「レンゲツツジの純群落の観がある」と述べています。

天然記念物指定

群馬県内の他の地域でもレンゲツツジは見られますが、湯の丸の群落は特に規模が大きく、その美しさから1956年（昭和31年）5月15日に国の天然記念物に指定されました。群馬県では、1951年（昭和26年）にレンゲツツジが県花に選ばれるなど、県民にも広く親しまれています。指定にあたっては、群落の広大さ、標高の高さ、地形の変化、花色の濃淡など、学術的な価値も考慮されました。指定地は、鹿沢温泉を営む小林家の所有地ですが、天然記念物指定に協力的で、嬬恋村に委任状を提出しました。

指定後の変化

指定後、道路建設やスキー場開発などによる現状変更が行われましたが、いずれも最小限に留められ、レンゲツツジの保全に配慮した形で行われました。特に、スキーリフト建設においては、レンゲツツジを隣接地に移植するなどの措置がとられました。

牧畜業の衰退と保全活動

1960年代以降、牧畜業が衰退し、放牧頭数が減少したことで、レンゲツツジ群落の維持に危機感が生じました。放牧が減ると、他の植物が高木化し、レンゲツツジの生育に必要な日光を遮ってしまうからです。そこで、地元関係者によって「湯の丸牧場運営協議会」が設立され、放牧が再開されました。また、嬬恋村では、群馬県や文化庁の指示を受け、レンゲツツジ群落の保護増殖事業が行われました。地元住民による「湯の丸レンゲツツジ保存会」も設立され、樹木の伐採などの管理作業が行われています。

近年では、環境省やJA信州うえだ、地元の高校生なども参加し、官民一体となって保全活動が行われています。モニタリング調査も行われ、伐採の効果を数値化するなど、保全活動の効率化も図られています。

開花時期とアクセス

毎年6月下旬になると、レンゲツツジ群落は紅色の花で埋め尽くされ、見事な景観を作り出します。60万株以上と言われるレンゲツツジの美しさを求めて、多くの観光客が訪れます。

アクセス:

公共交通機関：通年運行の公共交通機関はありません。
イベント期間中：JR吾妻線万座・鹿沢口駅から無料送迎バスが運行されます（約30分）。
自家用車：
上信越自動車道東部湯の丸インターチェンジから約20分。
* 関越自動車道渋川伊香保インターチェンジから国道144号経由で約120分。

まとめ

湯の丸レンゲツツジ群落は、牧畜という人間の営みと自然環境が調和して生まれた、特異な天然記念物です。その美しさを守るために、現在も地域の人々によって保全活動が続けられています。初夏の紅色の絶景は、訪れる人々の心を魅了し続けています。

もう一度検索