湯女

湯女（ゆな）とは

湯女とは、江戸時代初期の都市部において、銭湯で垢すりや髪すきなどのサービスを提供した女性たちのことです。中世には温泉地で見られましたが、次第に都市へと移り住むようになりました。当初は純粋なサービス提供者でしたが、時が経つにつれて飲食や音曲、さらには売春も行うようになり、その実態は変化していきました。

歴史と変遷

湯女のルーツは中世にさかのぼります。有馬温泉などの温泉宿で、湯治客の世話をする女性たちがその原型と考えられています。その後、都市部の銭湯でも同様のサービスが求められるようになり、湯女の活躍の場が広がりました。

初期の湯女は、あくまで垢すりや髪すきといった入浴サービスが主な仕事でした。しかし、次第にサービス内容は多様化し、飲食の提供や、三味線などの楽器を演奏したり、小唄を歌うなどの遊興も行うようになりました。さらに、売春も行うようになり、その実態は私娼と変わりなくなっていきました。

江戸幕府による規制

湯女の風紀の乱れを憂慮した江戸幕府は、度々禁止令を発令しました。特に、江戸では明暦3年（1657年）以降、湯女の営業は吉原遊廓のみに限定されました。この規制により、湯女の代わりに男性の「三助」が垢すりや髪すきを行うようになりました。湯女は、別名「あかかき女」や「風呂屋者」と呼ばれ、幕府の規制を逃れようとしましたが、最終的には取り締まられることとなりました。

湯女の隆盛と衰退

湯女は、私娼でありながら、吉原の遊女と同様に堂々と店を構えて営業していました。寛政の頃には、吉原と対立するほどの勢力を持つまでになりました。特に、「丹前風呂」の湯女は美しい女性が多く、大きな勢力を持っていましたが、その横暴な振る舞いを問題視した幕府は、慶安4年（1651年）に湯女を制限し、後に禁止しました。

湯女の規制後、江戸では「風呂屋女」という名称で、湯女と同様のサービスを行う女性が登場しました。表向きは職分を分けましたが、実際には売春も行われていました。寛永6年（1629年）に女歌舞伎が禁止されると、風呂屋女は女歌舞伎役者の代わりとして人気を集めました。しかし、あまりの人気に吉原の遊女が出稼ぎに出るほどでした。

度重なる規制にもかかわらず、風呂屋女は根絶することができず、明暦3年（1657年）には、江戸町内の風呂屋が200軒以上も打ち壊される事態となりました。


江戸では、元禄16年（1703年）の地震大火以降、風呂屋は純粋な銭湯としての営業に変化しましたが、上方では依然として風呂女による売春が行われていました。東京でも明治12、13年頃まで、風呂屋の2階で売春が行われていたという記録が残っています。

文献に見る湯女

井原西鶴の『好色一代男』や『好色一代女』には、湯女の様子が描かれています。『好色一代男』には、あかかき女が男性客の背中を洗う様子が描かれており、当時の入浴風景を垣間見ることができます。

『筆拍子』には、「延宝の頃、大阪の市中にあかすり女のありたる風呂屋十四軒」とあり、大阪でも湯女が活躍していたことがわかります。『慶長見聞集』には、湯女が入浴後の客に茶や湯を勧め、世間話をしたり、戯れたりする様子が描かれています。

元禄以降、上方で流行した名残として、天保以後まで大坂島之内の娼家などが、「○○風呂」と称していました。『心中天網島』の主人公、小春も島之内の風呂屋女の出身です。

まとめ

湯女は、江戸時代初期の風俗を語る上で欠かせない存在です。当初は純粋なサービス提供者でしたが、次第に売春も行うようになり、社会問題化しました。幕府による度重なる規制や、その後の変遷を通じて、江戸時代の社会のあり方や人々の生活を深く知ることができます。湯女の歴史は、単なる風俗史にとどまらず、当時の社会構造や文化を映し出す鏡のような存在と言えるでしょう。

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