私娼

私娼（ししょう）とは

私娼とは、公の許可を得て営業する公娼（こうしょう）に対し、許可を得ずに売春を行う女性を指します。

日本における私娼の歴史

日本における私娼の歴史は、奈良時代にまで遡る可能性があります。天平年間（729年 - 749年）には「遊行女（ゆぎょうじょ）」と呼ばれる女性たちがおり、彼女らを私娼とする説があります。『万葉集』には、大宰帥大伴卿に仕えた遊行女、児島の歌が収録されています。

時代が下ると、娼婦は遊行女のほかに、白拍子、遊女、傾城、傀儡子などに分かれました。鎌倉時代には、遊女という言葉が一般的になりました。

建久4年（1193年）には、源頼朝が里見義成を遊女別当に任命し、遊女屋や遊女の取り締まりを行わせました。これは、売春に対する最初の公的な取り締まりと言えるでしょう。

室町時代には、足利氏が傾城局を設け、娼婦から税金を徴収しました。豊臣時代には、京都柳の馬場に遊廓が設けられ、公娼の営業形態が散娼から集娼へと変化し始めました。

江戸時代に入ると、幕府は元和3年（1617年）に日本橋葺屋町界隈に遊郭の設置を許可し、ここを「吉原」と命名しました。これにより、公娼と私娼を区別する体制が整いました。吉原遊廓以外の場所で売春を行う娼婦は「淫売女」と呼ばれ、私娼として扱われました。文久元年（1861年）には、幕府が江戸および関東八州の宿屋や料理屋に対し、私娼を置くことを禁止しました。

明治時代以降の私娼

明治維新後、1873年（明治6年）に公娼取締規則が施行され、娼妓以外の売春は取り締まられるようになりました。臨時的な娼婦はもちろん、職業的な娼婦であっても、娼妓でなければ私娼とされました。1876年（明治9年）には、東京警視庁が売淫罰則を定めました。

銘酒屋の酌婦

大正期になると、都市部を中心に「銘酒屋」と呼ばれる私娼宿が増加し、「私娼窟」として栄えました。主な客層は学生や工場労働者などの低所得者層でした。東京の浅草千束町には大規模な私娼窟があり、吉原遊郭や浅草の歓楽街の近くに位置していました。そこで働く酌婦は、公娼である娼妓よりも若年であったり、様々な事情で公娼になれなかった女性が多かったようです。

1916年には、警視庁による私娼の大検挙が行われましたが、1923年の関東大震災後には郊外の玉の井、亀戸へ移転し、警察から黙認されるようになりました。警察は、芸者とともに酌婦を規制する代わりに売春を黙認する準公娼という形を取りました。黙認後の私娼窟の様子は、永井荷風の『断腸亭日乗』や今和次郎の考現学に記録されています。

関東近郊では、東京のほか、公娼廃止を実施した群馬県や埼玉県に銘酒屋の酌婦が多く存在しました。これらの地域には、東京の遊郭や花街で働くことができなかった女性も多く流入していたとされています。

参考資料

* 寺澤優『戦前日本の私娼・性風俗産業と大衆社会　売買春と恋愛の近現代史』有志舎、2022年 ISBN 978-4-908672-61-3

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