湯帷子

湯帷子（ゆかたびら）は、古く平安時代に生まれ、風呂に入る際に身につけられた日本古来の衣服です。素材は主に麻を用いた裏地のない単衣（ひとえ）仕立てで、今日私たちが夏の装いとして親しんでいる浴衣の直接的なルーツにあたるものです。

風呂で着用する肌着の歴史はさらに遡ることができ、飛鳥時代にはすでに「湯帳（ゆあわせ）」と呼ばれるものが存在していたことが、文献などからうかがい知れます。湯帷子が広く用いられるようになった平安時代は、特に貴族社会において、湯船にゆったりと浸かるというよりは、もっぱら蒸し風呂を利用するのが一般的な入浴スタイルでした。当時の風呂は今のような快適なものではなく、蒸気によって高温になるため、素肌のままでは火傷の危険がありました。また、大量の汗をかくため、その吸収も大きな課題でした。加えて、人前で裸体を晒すことを避けるという目的もあり、これらの理由から、蒸し風呂に入る際に湯帷子を着用したのです。湯帷子は、熱い蒸気から肌を守り、流れる汗を吸い取り、そして人目を気にすることなく入浴できるための、実用的な衣として機能しました。

時代が下り、入浴の習慣にも変化が見られ始めます。鎌倉時代に入ると、風呂での肌着として、男性は褌（ふんどし）、女性は湯文字（ゆもじ）といった、より簡易なものを身につけるスタイルが一般的となっていきました。そして、安土桃山時代に至る頃には、次第に裸で入浴するという習慣も広まっていったようです。

湯帷子の役割が再び大きく変わるのは、江戸時代に入ってからです。この時代には、町人文化の興隆とともに銭湯が庶民の間に広く普及し、また安価で肌触りが良く、吸湿性に富む木綿が大量生産され、人々の手に届くようになりました。こうした社会的な変化を背景に、湯帷子はかつての蒸し風呂での着用着から、風呂上がりの体の水分を拭き取るための吸水着、いわゆる湯上がり着へとその用途を変えていきました。湯上がりにさっと羽織る木綿の湯帷子は、汗や水分をよく吸い取り、肌をさっぱりとさせるのに最適でした。そして、この湯上がり着としての湯帷子が、次第に夏の寝間着や、さらには近所への外出着としても使われるようになり、形や機能を進化させていった結果、現代の浴衣へと繋がっていくのです。

このように、湯帷子は平安時代の貴族の蒸し風呂着として生まれ、時代と共にその役割を変えながら、江戸時代に庶民の湯上がり着として普及し、現代の浴衣の源流となった、日本の入浴文化や衣服の歴史を知る上で非常に興味深い存在と言えるでしょう。

もう一度検索